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M&Aの重要論点!日本基準と国際基準における『のれん』の会計処理を考える

2019.08.29コラム

M&Aにより株式を取得した際、取得金額が時価純資産を上回った場合には、無形資産等への振り分け後の差額が「のれん」として資産の部に計上されます。
この「のれん」は我が国の会計基準上では最長20年をもって償却されることになります。(10年~15年程度が最近の潮流ですが)

M&Aの重要論点!日本基準と国際基準における『のれん』の会計処理を考える

日本基準と国際基準で『のれん』の会計処理が違う

この「のれん」の会計処理は、我が国の会計基準と国際会計基準(IFRS)で処理方法が異なっています。我が国は上述の通り償却を行うのに対して、IFRSでは原則、非償却となります。
その代わり毎期、「のれん」に対する減損テストを実施し、減損と認められた場合のみ、回収可能価額まで減額されます。
日本の会計基準と国際会計基準のコンバージェンス作業において、この「のれん」の会計処理は未だコンバージェンスされていない論点となっており、議論が続けられているものの見通しはまだたっておりません。

『のれん』の会計処理は日本基準のほうが機能的⁈

ここで最近、日本の会計基準と国際会計基準のコンバージェンス作業において、差異がある論点のほぼすべては、日本基準が国際基準に合わせるといった対応が(結果的に)取られている中、この「のれん」の処理については少し違う動きが出てきています。
つまり、非償却よりも償却のほうがいいのではないか?という意見が、欧米から出始めているということです。
主な理由は以下の2点です。

  • 将来計画をポジティブに評価しすぎるがあまり、減損されるべき「のれん」が減損されず非償却のままでいる。その結果、数年後に巨額の減損が発生し企業の業績に多大なネガティブインパクトを与えてしまう
  • 毎期の減損テストに係るコストが高い

特に1点目は重要な問題だと思います。
投資家は企業が作成し監査法人がチェックした財務諸表を信じて投資に係る意思決定を実施しています。
その中で、予想だにしない巨額に減損が発生してしまい株価が暴落してしまったら、投資家はたまったものではありません。
企業は自身が作成した事業計画に基づくM&Aに自信があるのは当然で、どうしてもポジティブに評価してしまいがちです。
そして監査法人は将来の事象については(ばらつきはあるとはいえ)企業が自信をもって説明する事業計画について、直ちにはネガティブな評価はしにくい(担当の会計士によっても違うとは思いますが・・・)ものです。
1~2年程度様子を見てみましょう、みたいな対応をしてしまい、その間事業計画を大きく割り込むような事象が発生し、結果大きな減損が発生してしまうのです。

この点、日本の会計基準は機能的です。毎期、定期的に償却を実施した上で、回収の見込みが立たない場合は減損を行います。
そのため減損実施時においてもある程度償却が進んでいるため、国際会計基準における減損額と比較し、ある程度、一時のPLにおけるインパクトを押さえることができます。

『のれん』を含む、会計上の見積もりに関する会計処理は難しい論点

個人的には何でもかんでも国際会計基準に合わせるべきではないと思っていた中で、このような動きが出てきたの歓迎すべき兆候だと思っています。
減損等で使われる将来キャッシュフローの検討など会計上の見積りに関する論点は、監査法人によっても、また同じ監査法人でも担当する会計士によっても判断が分かれる、とても難しい論点です。
このような論点を国際会計基準のような原理原則論で処理(だれもがあるべきキャッシュフローを正確に判断できるのであれば国際会計基準でもよいが)しようしても限界があります。
ルールを運用するのはあくまで人間なので、会計基準も人間が判断することを前提とした制度設計にするべきなのではと考えます。

この記事の執筆者
公認会計士 門澤 慎

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