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中小企業のM&Aでしばしば散見される年買(倍)法について

2022.06.08コラム

中小企業のM&Aでしばしば散見される年買(倍)法について 画像

 以前のコラム「会社の価値の考え方」でも触れましたが、中小企業のM&Aでしばしば散見される株式価値評価方法の中に、年買(倍)法という評価方法があります。株式価値の評価方法では理論的ではないとされスタンダードではないものの、仲介会社を中心として広がった評価方法です。
 
 株式価値=純資産+●●利益×●年分

 上記の式が一般的なもので、利益には営業利益や経常利益、当期純利益など幅広い利益が使われ、年数も1年から5年と案件によって様々です。私はこの評価方法を批判的に捉えていますが、その大きな理由は●の部分がなにかの根拠に基づいているわけではなく、会社や現場の裁量で大きく変わってしまうからです。M&Aで株式価値評価をする理由は、まずは売却するなり買収するなりの初期的な意思決定をする上でベースとなる金額感をしっかりと把握することです。ベースの金額をしっかりとつかんでおかないと、その後の価格交渉の中で、どこまでが許容範囲でどこからは受け入れられない範囲の価格であるかの定量的な判断が(本当は)できないのです。そのためにはしっかりと理論的に説明できる評価方法を選択すべきで、それがDCF法や類似会社比較法、時価純資産法だと考えます。

 この点、中小企業庁も2015年3月に公表した「事業引継ぎガイドライン~M&A等を活用した事業承継の手続き~(*)」では年買(倍)法を評価の事例として記載しているところ、2020年3月に公表した「中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~(**)」では、純資産法や類似会社比較法を事例として記載した上で、年買(倍)法は、純資産法の参考として記載しています。国としても徐々に中小企業のM&A市場における株式価値評価方法の問題点に気づいてきたのではないでしょうか。

 上記のように私は年買(倍)法を批判的に捉えていますが、その一番の大きな理由は理論的ではないという部分です(つまり変数を恣意的に動かすことが可能)。そのためこの「理論的ではない」、「恣意的」と言った弱点がクリアできればもしかしたら考え方が変わるかもしれません。批判ばかりしても前には進まないので、少し自分でも考えてみようと思っています。

参考情報

* 「事業引継ぎガイドライン~M&A等を活用した事業承継の手続き~」
** 「中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~」

この記事の執筆者

この記事の執筆者
公認会計士 門澤 慎

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