この記事では、主に売手側の目線で、M&Aのプロセスをお伝えします。
まず初めに、M&Aの一般的なプロセスをご紹介します。
それぞれのSTEPで何が行われ、どのような点に留意すべきかを、一つずつお伝えしていきます。
M&Aの検討段階から、事前準備が開始されます。
成功するディールでは、この事前準備の段階で売り主とフィナンシャル・アドバイザー(FA)とのコミュニケーションが豊富なケースが非常に多いです。
一方、ディールがスムーズに進まない場合は、この事前準備のステップでうまくコミュニケーションが取れていない場合が散見されます。
企業経営の中でも大きなイベントでもあるM&Aを実行する際、売り手企業(FAにとっては顧客)に寄り添ってその実行をサポートするのがFAの立場です。
企業とFAの間でコミュニケーションが十分に行われていないと、売り手企業からうまくFAに情報が伝わらなかったり、一方でFAが考えている戦略的なプロセスを売り手企業に理解されなかったりと、
満足な意思疎通ができず十分な事前準備がないまま次のプロセスに進んでしまうことになります。
そのため、以下の事前準備項目を念頭に入れ、M&Aのプロセスを意識しながら、事前準備にとりかかることが重要です。
事前準備の中でも最も重要な項目の一つです。
M&Aの相手先をリストアップし、どの候補企業に打診するかを決めます。
一般的にはFA側でロングリスト(候補企業を想定したリスト)を作成し、売り手企業とディスカッションを重ねながら、優先順位、除外・追加を決めていきます。
ロングリストには「企業名」の他に、「本社所在地」「事業概要」や上場企業の場合であればIRで公開されている「売上高」「営業利益」「現預金」など、候補企業として選定するに足る情報を用意し、
売り手企業とディスカッションを始めます。
ここでいう候補企業とは、事業運営を行う上での「競合企業」のみではなく、取引先や隣接業種など、様々な候補企業が想定されます。
ロングリストを作成し、候補企業をブラッシュアップする上で重要な観点は下記になります。
ノンネームシートとは売却対象となる企業もしくは事業の情報を1枚に収めた概要書を指します。ティーザーとも呼ばれることもありますが本コラムでは「ノンネームシート」という呼び名で統一します。
ノンネームシートの作成の目的は、「売り手企業の名を特定されずに事業上の強みや財務情報が一目でわかる、検討を進めるに足る情報が載っている」資料を作成することです。
運営事業の概要及び、本社のエリア、従業員数、株主構成、事業の定性的な魅力、財務情報(B/S、P/L)のサマリー、などを公開できる範囲でまとめていきます。
ノンネームシートで情報を詳しく記載しすぎると売り手企業の名前が特定されてしまったり、一方で、情報を制限しすぎて候補企業が次のプロセスに進めるか否かの検討をすることができない情報しか載せられていない、などの問題が出てきます。ノンネームシートの作成にあたってはFAに相談の上、候補企業が普段から重要視しているポイントを押さえたノンネームシートを意識しましょう。
ここまでが事前準備の範囲となります。
上記の事前準備段階が終了すると、いよいよ本格的に売り手企業の魅力を候補企業に伝えていくプロセスになります。
まずはスケジュールの策定です。満足のいく希望のオファーを勝ち取るためにはプロセス全体のスケジュールを設定し候補企業の条件をうまく比較できるようなプロセスの設計が必要になります。このステップにおいても様々な業務が発生します。まずはFAと相談の上、クロージングの目標日から逆算し、スケジュールの設定を行います。
上記のスケジュールに則り、ロングリスト記載の候補企業に対して、優先順位をつけて打診を開始していきます。
ノンネームシートを利用し1日1~3社程度、2~3週間程度の時間を要してアプローチを行っていきます。
ノンネームシートを用いた打診をする中で、売り手企業に興味を持ち、次のステップへと進みたい、という希望が、候補企業からFAに寄せられます。
その場合は、秘密保持契約書(誓約書)、いわゆるNDA(CA)と呼ばれるものを締結します。
NDAを締結後はネームクリアを行い、より具体的な情報の開示となります。
インフォメーション・メモランダム(IM)は「企業情報」「事業内容」「財務情報」「事業計画」「市場環境」などの売り手企業に関する重要な情報が全て詰まった資料となります。IMに載っている情報だけで、候補企業は何等かの意向をオフィシャルに提出できるに足る濃度の高い資料提供をする必要があります。
IMは、情報量の少ないもので10数ページから、多いものだと30~40ページ以上に渡るような資料になることもあります。
投資家向けのピッチ資料、金融機関向けの提出資料ともまた違う、M&Aのプロセスで検討するに足る資料となるのでFAに依頼をして自社で保有する資料を開示し、必要な情報が詰まったIMの作成を依頼しましょう。
本プロセスの中で最も重要なステップとなります。通常IMを説明する際には、「プロセスレター」と呼ばれる売り手企業が望むプロセスを記載したレターを作成し、候補企業へはプロセスレターに沿って案件を進めるよう依頼をします。このプロセスレターの中で重要なのが「意向表明書」の提出期限です。
複数の候補企業に検討を依頼する場合、この意向表明書の提出期限にばらつきがあると相対評価で項目を並べての検討が難しくなります。
候補企業の通常プロセスでの検討期間などを考慮し、FAと相談の上、無理のない日程を設定し、意向表明書の提出期限を区切ります。
意向表明書には、下記項目を記載するのが一般的です。
「デュー・デリジェンス」とも発音・表記され、一般には「デュー・ディリ」「デュー・デリ」などと呼ばれたり、文章では「DD」と表記することもあります。
M&Aのプロセスの中で候補企業から最も多くの質問や資料依頼などの調査をかけられる、プロセス全体において売主の負荷が最もかかるプロセスになります。
DDを受け入れるためには、仮に複数の候補がDDのプロセスに進んだ場合、その各候補企業から好きなように質問を受けていては、売主側での作業が1社の場合に比べ2倍にも3倍にもなってしまいます。
そのため、FAを活用し事前にDDに必要な資料パッケージを用意する等、可能な限りDDを効率的に進めることができるような体制を構築しておくことが重要となります。
また、DDの際の分量の目安としてどのような案件でも開示資料で70~100件、Q&A対応で150~500問の質問・回答が想定されます。
複数の会社がDDを行えば、これら開示資料やQ&A対応がさらに増えることとなるので、現場はてんてこ舞いになってしまいます。そのためFAが売り手企業と候補企業(もしくは候補企業のFA)との間に入り、開示資料の準備やQ&A対応のサポートを行っていきます。
DDを進める際は、ビジネス・財務・税務・法務の観点でのDDが一般的に実施されます。最近ではシステム面でのDDや環境に関するDDを行うケースも増えています。
候補企業は、弁護士事務所や会計士事務所・税理士事務所等、その道のエキスパートに依頼をし、DDを通して各項目の監査を行います。
その対応を売主のみで行うことは極めて難しく、また、M&Aにおける各論点をしっかりと把握した上で適切な資料開示やQ&A対応を行うことが重要となります。
FAを活用し、その対応を乗り切れる準備を行いましょう。
DDにおいて各項目でインタビューを受ける場合は、一般的にFAが同席をします。M&Aではウソは絶対についてはいけませんが、あえて言わなくてもよいことを積極的に言う必要もありません。その際、どこまでが言っていいことで、どこまでが言ってはいけないことか判断することは意外に難しいです。
このような場合、FAをうまく活用することで事前にインタビューリストを入手したり、事前にインタビューのシミュレーションを実施したりすることで、売り手企業の不安が解消されることになります。
本項目の3-1でお伝えしたように、Q&A対応は一般に150-500問にものぼると言われています。
FAを活用し、重複する質問の回答や、質問数の制限、頻度のコントロールを行うことが可能です。
上記のプロセスを経て、候補企業から最終の意向を確認します。ここでは最終(二次)の意向表明書に加えて、一般的には最終契約書(株式譲渡の場合では「株式譲渡契約書」「株式売買契約書」、事業譲渡の場合では「事業譲渡契約書」を指します)のマークアップ版(候補企業による修正版)の提出を候補企業に要求します。
このタイミングで最終契約書を受領することで、意向表明の中の項目では確認ができない契約書上で論点になり得る事項を事前に確認することが可能になります。
このステップを経て最終の交渉相手を選定し、最終契約書の締結・クロージングのステップへと移ります。
この項目では最終契約書の締結に関する説明を行います。
このプロセスではDDを終え、候補企業と最終の契約書締結に向けたやりとりを開始します。
DD期間中に最終契約書のファーストドラフトを作成するケースが多いです。そうすることでDD終了後、効率的に次のステップに進むことができるからです。その場合、売主から作成した契約書を候補企業に提出することにより、まずは売主に有利な契約書作成が可能になります。
ただし、あまりにも現実とかけ離れた契約書を候補企業に提出すると結果的に交渉が長引いてしまいお互いにとってメリットとならないので、M&Aに慣れた弁護士やFAに相談をしながらしっかりとした戦略を立てて最終契約書のファーストドラフトを作成することが重要です。
一般に最終契約書のやりとりが一度の往復で終わることはありません。
一度契約を締結してしまうと後で修正することができないので、売り手企業・買い手企業ともに相当の工数をかけて契約書をチェックしてくるでしょう。
ここで、こちらの希望で作成・提出した内容から、修正の項目が入ってもその内容で全てを受け入れる必要はありません。
最終契約書全体の中で重視すべき点、譲歩可能な点をよく検討し、弁護士・FAに相談の上、交渉を進めていきましょう。
最終契約書の内容に合意・締結を行うと、最後はクロージングのプロセスです。
クロージング条件を満たし、決済の手続きを終えるまでがM&Aのディールプロセスになります。このクロージング手続きの中で、例えばCOC(株主を変更することで契約書、契約相手先との対応が発生する条項)で承諾を取りに行く手続きや、許認可等の再取得などの手続きが発生する場合があります。買い手企業としても、株式を取得しても事業運営上で重要な契約が引き継がれなかったらその後事業を運営していくことが困難となります。そのような事態が起きないように、決済までの間にこれらの手続き・確認を行っていきます。
会社の売買は不動産の売買とは違い、検討・分析項目が多く、スケジュールも長期にわたり、多数の利害関係者が介在します。それらをうまくコントロールし、交渉し、顧客をゴールまで導くのがFAという役割です。
もし皆さんもM&Aを検討される際は、一度FA(できれば弊社!)に相談してみてください。
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