
会社を売却する際、買い手候補先をリストアップすることになります。買い手候補先リストの中には、同業や周辺業界の会社だけでなく、全く異なる業界の会社もリストアップされるかもしれません。そしてその中で、ファンド(プライベート・エクイティ・ファンド、以下「PEファンド」という。)と呼ばれる企業買収に特化した組織がピックアップされることが最近、増えてきました。PEファンドとは、複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を基に事業会社の未公開株を取得し、同時にその企業の経営に深く関与して企業価値を高めた後に売却することで高いリターンを獲得することを目的とした組織です。一般的に10年を一区切りとして、最初の5年間で投資家から集めた資金を使って会社を買収し、残りの5年で企業価値を高め売却する、もしくは上場(IPO)させることで利益を出します。
ひと昔ではわが国でも「ハゲタカファンド」という言葉が流行したことで、(悪い意味で)ファンドが有名になりました。今でも顧客へ訪問しPEファンドの話をすると、「ハゲタカファンド」のイメージが強いせいか、PEファンドに嫌悪感を持たれる経営者も一定程度います(減ってきている印象がありますが)。一方で、昨今、我が国でもM&Aの増加とともにPEファンドも増えてきています。数としても数十後半(最近は新興も増えているので100近く)はあると思います。それでは、これらPEファンドは、かつて日本で流行した「ハゲタカファンド」のイメージ(短期で強硬なリストラやコストカットで一時的に利益を出し転売するといった)と同様の手法を使って利益を出そうとする組織なのでしょうか。
結論としては、そのような手法に特化して無理やり利益を出そうとするファンドは、個人的な感覚として昨今は少ないように思います。特に事業承継型M&Aの領域では特にそう思います。まず現在のM&A市場は完全な売り手市場です。買収対象になり得る会社であれば、複数の事業会社・PEファンドが当該会社を買収したいと思うため、案件の取り合いになります。そのような状態で「ハゲタカファンド」のようなイメージがついてしまったPEファンドはイメージが大きく毀損されM&Aアドバイザーや金融機関が敬遠するため、案件が持ち込まれなくなってしまうことでしょう。また昨今、特に事業承継を対象としたPEファンドには、国の独立行政法人である中小機構や多くの地銀が出資しています。これらの出資者は中小企業の事業を継続・成長させるため、そして地場の産業や雇用を守るため目的でPEファンドに出資しています(その上でもちろん投資なのでリターンも期待します)。そのため、出資者の目的を鑑みると「ハゲタカファンド」に近い行動はなかなか取れないと思われます。
このように現在のPEファンドは、かつて流行した「ハゲタカファンド」のイメージのようなファンドは極めて少ないです。そのため、会社を売却する際には、事業会社と同様、PEファンドは買い手候補先として挙げられます。それでは次に、会社を売却する際、ファンドをどのように考えればよいでしょうか。ひとくくりにPEファンドと言っても色々とあります。次号ではこの点について検討したいと思います。
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- 公認会計士 門澤 慎