
2024年8月30日に、中小企業庁より中小M&Aガイドライン(第3版)(*1)が公表されました。第3版の概要としては、①手数料も踏まえつつ、質の高い仲介者・FAが選ばれる環境を促すため、手数料・提供業務に関する事項を追記、②加えて前回第2回改訂時と同様にM&A支援機関の質の確保の観点から、仲介者・FAが実施する営業・広告に係る規律や仲介者において禁止される利益相反事項等の具体化を図っている、③さらに、譲り渡し側・譲り受け側の当事者間のトラブルに関し、最終契約後にトラブルに発展するリスク、その対応策について解説するとともに、仲介者・FAに対して求める対応や最終契約の不履行を意図的に生じさせるような不適切な譲り受け側を市場から排除するための対応についても追記している、として、以下7つの事項について、具体的な説明を付しています。
(出典:中小M&Aガイドライン改訂(第3版)に関する概要資料(*2))
特に今回の改訂では、M&A支援機関の手数料について、踏み込んで記載されています。今回の第3版の改訂により、中小M&A支援機関はデータベース上で各社の標準的な手数料を開示することになり、売り手または買い手は各社報酬テーブルを比較することが可能となりました。例えば売り手が複数のM&A支援機関から、成功報酬につき各社同様の料率のレーマン方式で提案を受けていたとします。一見、同じ譲渡金額であれば成功報酬の額も同額と思うかもしれませんが、レーマン方式の料率は、譲渡金額に料率を乗ずる方式(株価レーマン)と、移動総資産(譲渡金額+負債)に料率を乗ずる方式(移動総資産レーマン)の大きく2つの方式があり、どちらが適用されるかで報酬額も変わってきてしまいます。もちろん移動総資産(譲渡金額+負債)に料率を乗ずる方式(移動総資産レーマン)のほうが、一般的に報酬額が高くなります。どのM&A支援機関を選ぶかは複合的な要因で決まることだとは思われますが、報酬については比較しやすくなりました。
また当ガイドラインでは利益相反に関する禁止事項も明記されました。仲介者は、両当事者から依頼を受ける以上、両当事者に対して中立・公平でなければならず、不当に一方当事者の利益又は不利益となるような利益相反行為を行ってはなりません。特に、仲介者自身又は第三者の利益を図る目的で当該利益相反行為を決して行ってはならないことは明らかです。このため、少なくとも、以下の行為を行ってはならず、仲介契約書において以下の行為を行わない旨を仲介者の義務として定めなければならないとして、M&A支援機関の中でも仲介会社は以下を遵守する必要が出てきました。
- 譲り受け側から追加で手数料を取得し、当該譲り受け側に便宜を図る行為(当事者のニーズに反したマッチングの優先的実施又は不当に低額な譲渡価額への誘導等)
- リピーターとなる依頼者を優遇し、当該依頼者に便宜を図る行為(当事者のニーズに反したマッチングの優先的実施又は不当に低額な譲渡価額への誘導等)
- 譲り渡し側(譲り受け側)の希望した譲渡額よりも高い(低い)譲渡額でM&Aが成立した場合、譲り渡し側(譲り受け側)に対し、正規の手数料とは別に、希望した譲渡額と成立した譲渡額の差分の一定割合を報酬として要求する行為
- 一方当事者から伝達を求められた事項を他方当事者に対して伝達せず、又は一方当事者が実際には告げていない事項を偽って他方当事者に対して伝達する行為
- 一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を認識した場合に、当該情報を当該当事者に対して伝達せず、秘匿する行為
また上記以外でも、昨今、事件にもなった経営者保証の対応についても踏み込まれて記載されています。このように中小M&Aガイドライン(第3版)は、第1版からの複数回の改訂を経て、仲介会社の利益相反問題やM&A支援機関の質について、踏み込まれて記載されることとなりました。このような傾向はM&Aアドバイザー業界の質の向上の観点でも、事業承継問題の解消という我が国の社会的課題を円滑に解決する点でも、望ましい流れだと思われます。
一方で、今回の改訂で中小M&Aガイドラインでここまで記載しなければならないほどの悪質な業者の存在(大手中小問わず)があることも浮き彫りにされたとも言えます。またあくまでガイドライン上での指針にしかすぎず罰則がないことによる実効性の限界をどのように考えていくのかについても、今度のさらなる課題であると考えます。
参考情報
(*1) 中小M&Aガイドライン(第3版)
(*2) 中小M&Aガイドライン改訂(第3版)に関する概要資料
この記事の執筆者
- この記事の執筆者
- 公認会計士 門澤 慎