前号の親族外事業承継におけるM&A業界で指摘されている問題点の考え方①~仲介取引における利益相反問題~では、仲介取引における利益相反問題の2つの構造的な問題点を指摘しました。また加えて、同じく仲介取引が行われている不動産業界とM&A業界の比較をしました。今回は、もう一つ大きな論点として指摘されている、親族外事業承継におけるM&A業界の成功報酬体系について書いてみたいと思います。
親族外事業承継に限らず、M&Aのアドバイザリー報酬は、一般的に成功報酬の部分が大きくなります。これはM&Aという業務の性質上、不確実性が高く、かつ長期にわたるプロジェクトになるため、報酬を払う側にとっては「M&Aがブレイクして実行されなかった場合には、報酬の支払いを最小限にしたい、しかしうまくいったらしっかりと支払うこともやぶさかではない」という思惑と、アドバイザー側の「どれだけ工数がかかるかわからない状況で固定報酬を見積りにくい、大きな案件を実行できた場合は、それに見合った大きな報酬をもらいたい」、という思惑が、ある程度合致した結果であると考えられます。このような思惑の合致の結果、M&Aアドバイザリー業務の報酬は、成功報酬が定着しています。この点、金額の大きな資産でかつ交渉の結果ブレイクのリスクも相当程度ある、不動産取引と類似しています。
中小企業庁が公表した「中小M&Aガイドライン」では、アドバイザリー報酬について以下のように記載されています。
1 手数料の種類
料金体系として、着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の形式が多く見られることから、これらの概要について、以下、整理する。ただし、仲介者・FA の手数料には 一般的な法規制がなく、どのような料金体系を採用するかは、あくまで各仲介者・ FAによる点については留意が必要である(着手金・月額報酬・中間金を設けず、成功報酬のみを設ける仲介者・FAも相当数あるとされる。)。なお、別途、実費(交通費等)を請求することもある。
- (1) 着手金
着手金は、主に依頼者との仲介契約・FA契約締結時に発生する手数料である。後述の成功報酬が発生した場合には、当該成功報酬に含まれる成功報酬の内金となるものとすることもある 。請求する仲介者・FAと、請求しない仲介者・FAに分かれる。
- (2) 月額報酬
月額報酬(定額顧問料、リテーナーフィーと呼ばれることもある。) は、主に月ごとに定期的に定額で発生する手数料である。 後述の成功報酬が発生した場合には、当該成功報酬に含まれる(成功報酬の内金となる)ものとすることもある。請求する仲介者・FAと、請求しない仲介者・FAに分かれる。
- (3) 中間金
中間金は、基本合意締結時等、案件完了前の一定の時点に発生する手数料である。後述の成功報酬が発生した場合にはこれに含まれるものとすることが多い。請求する仲介者・FAと、請求しない仲介者・FAに分かれる。
- (4) 成功報酬
成功報酬は、主にクロージング時等の案件完了時に発生する手数料である。仲介者・FAの場合は、主に以下の3つの基準となる価額のいずれかに、一定の方式に則った計算を施すものが多い。ただし、これらを組み合わせたり、修正したりする方式もあれば、これらと全く異なる方式(例えば、定額)を採用する仲介者・FAも存在する。なお、後述のとおり、最低手数料が設けられるケースが多いが、その金額の水準も各仲介者・FAによって異なるため、複数の仲介者・FAを比較検討することが望ましい。
- ①譲渡額(譲受額)
譲り渡した(譲り受けた)金額そのものを基準とするものである。基準として理解しやすいと言える。譲り渡し側の場合には、譲渡額が高くなれば手数料の金額が高くなることにも合理性が認められるが、譲り受け側の場合には、譲受額が高くなるほど手数料の金額も高くなり負担感が増すため、異なる算定方法(例えば、譲り受け側のみ定額とする等)が合理的であることが多い。
- ②移動総資産額
主に譲渡額に負債額を加えた、いわゆる「移動総資産額」を基準とするものである。これは、譲り渡し側の(移動)総資産額は、その事業規模に連動して大きくなる傾向にあるとの考えによるものである。したがって、同じ譲渡額であっても、負債(特に借入金)の金額が高い方が、手数料は高くなるということになる。
- ③純資産額
資産と負債の差額である。簿価純資産額の場合には、決算書上の記載を基に容易に計算でき、明確であるという特徴があるため、特に譲り渡し側が小規模企業の企業の場合には、簿価純資産額を基準とすることがある。なお、譲り渡し側が債務超過企業の場合には、純資産額がゼロ円以下となってしまうため、通常、別の要素を考慮する譲渡額(前述の①参照)や移動総資産額(前述の②参照)を基準とすることが多い。
引用:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
このように、成功報酬以外でも、着手金、月額報酬、中間金といった報酬が発生する場合もあります。しかし、これら報酬の金額は通常、成功報酬の10%~20%程度(10%未満の場合もある)で、アドバイザーの実働工数の一部回収といった側面が強いものとなります。アドバイザーによって、または各案件によっては、着手金、月額報酬、中間金のいずれかを提案される場合もあれば、完全成功報酬として全く提案されないケースもありますので、この点は、案件ごとにアドバイザーと報酬についての相談することになるでしょう。
次に成功報酬をより具体的に検討していきたいと思います。上記「中小M&Aガイドライン」抜粋の(4)成功報酬では、3つの基準額が例示されています。
①譲渡額(譲受額)
②移動総資産額
③純資産額
この3つの基準額のうちよく使われるのは①です。株式の譲渡金額に応じた報酬を支払うという点ではわかりやすいと思います。この①に対して、株式の譲渡金額に負債(特に借入金)を加えた金額に応じて報酬を支払うという考え方が②の移動総資産額となります。
またM&Aの成功報酬の料率はレーマン方式という考え方が有名で、一般的にもよく使われています。中小M&Aガイドラインでも、以下の表が一般的な例として例示されています。
基準となる価額(円) | 乗じる割(%) |
5億円以下の部分 | 5 |
5億円超10億円以下の部分 | 4 |
10億円超50億円以下の部分 | 3 |
50億円超100億円以下の部分 | 2 |
100億円超の部分 | 1 |
この表にある「基準となる価額」が上記①、②、③の金額となります。ここで、事例を使って、①と②で計算した場合の報酬額を算出してみたいと思います。
・売却額8億円(この会社に5億円の負債がある)
でM&Aが行われたとします。
①譲渡額基準で計算した場合の報酬は、
・5億円×5%+3億円×4%=3,700万円
となります。一方で、②移動総資産額基準で計算した場合は、8億円+5億円(負債)=13億円 が基準額となるため、
・5億円×5%+5億円×4%+3億円×3%=5,400万円
が報酬額となります。同じ会社でも①と②で②移動総資産額のほうが1,700万円多くなります。
負債が多額にあり株式譲渡額自体はほぼゼロに近い会社であれば、①譲渡額基準で報酬を計算すると報酬がなくなってしまうので②の基準を使うことも理解できます。また再生案件のような会社も同様でしょう。しかし一部のM&A専門会社では、一律で②の報酬基準を提案し、しかもその算定方法があたかも一般的であるかのような説明を顧客にしているといった事例も耳にします。このような状況が続くと、親族外M&Aの成功報酬は(想定以上に)多額であるというイメージが定着し、売り手も本来なら会社を売却したほうがいい場合であっても、会社を売却することに躊躇したり迷ったりすることで判断が遅れることにもつながります。
そのためM&A専門業者は、中小M&Aガイドラインで規定されている報酬体系を顧客にしっかりと説明し各報酬体系の特徴を顧客に理解してもらった上で自社の報酬体系を説明するといったプロセスを踏むことで(特に②移動総資産額で提案をする場合)、アドバイザリー契約を締結しなければならないと考えます。
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