
2025年6月23日の日経新聞にて、「中小企業のM&A仲介に資格制度 26年度、トラブル防ぎ市場活性化」という見出しの記事が掲載されました。(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA188N60Y5A610C2000000/)
トラブルが頻発している中小M&Aの仲介業務につき、財務や法務の知識、そして実務能力を図るとともに倫理規定の順守も求めるとのことです。一方でこの試験制度については、まだ中小企業庁からは公式に公表されているものではありません。かねてから不動産業界の宅建と比較されその必要性を指摘されてきた中小M&A業界の資格制度ですが、はたしてどのような内容になるのでしょうか。
中小M&A業界の資格制度については、中小企業庁の研究会「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(第一回2025年5月9日、第二回2025年6月6日)で議論が始まり、その概要が一部公表されています。
■M&Aアドバイザー個人の質・倫理観の向上
M&Aの実施にあたっては、財務、税務、法務等の専門支援が総合的に求められる一方で、M&Aアドバイザーの専門知識には大きなバラつきがあることや、業界全体での規律の浸透を図るためには組織レベルでの規律に加えてM&Aアドバイザー個人レベルでの規律浸透が求められることから、新たな資格制度を検討し、支援人材の育成を図るべきではないか。
中小企業庁は上記のような課題感の中で新たな資格制度の必要性を指摘し、併せて「M&Aアドバイザーに求められる知識・倫理観」について整理した上で、「中小M&Aアドバイザーに求められる知識・スキルマップ」を公表しました。
また中小企業庁は「米国におけるM&Aブローカーの資格制度の概要」についても公表をしています。ここでは米国では、M&Aブローカーの自主規制団体であるIBBA(International Business Brokers Association)が業者の認定資格(The Certified Business Intermediary)を運営し、資格保有者は倫理規定等の遵守を要件としてIBBAに登録され、所在地等で検索が可能な形でHPに掲載されている旨、その特徴として、取得には筆記試験に加え、一定の業務経験が求められ(売り手の主担当として3件以上の取引に関与したことの証明)、さらにIBBAが運営する教育機関での単位取得(職業倫理、財務分析、企業価値評価、法務、税務等)等が必要となる旨、そしてその資格は3年ごとの更新が必要(IBBA大学での単位取得等)で 協会の定款や倫理規定等への違反が、資格剥奪要件となる旨が記載されています。これらも参考に中小企業庁は以下の試験案を公表しました。

ここで国が関与する資格試験の最大の論点(関心)は免許制かどうか(独占業務の有無)です。この点、中小企業庁の研究会「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」の現状までの議論を見る限りは免許制とせず、あくまでの最低限のスキルや知識、知見(倫理観)を問う能力検定のような試験になるように思われます。また実施主体についても民間団体での運用(受験資格が運用団体の強制加入というのは勘弁してほしいですが)を考えているようなので、国家試験ではなく民間試験を検討しているのではないでしょうか(証券アナリストのようなイメージ)。そして、そうはいっても単なる民間試験だと資格試験に対する権威付けが弱いため、中小企業庁が管理する中小M&A支援機関制度と連動させることで試験制度の権威付けをすると思われます。
私はこれまで、不動産業界には宅建という国家資格によって最低限の能力や倫理観を担保しているが、M&A業界は国家資格も能力試験もないため参入障壁が著しく低い業界(無法地帯)であると、様々なセミナーやコラムで言ってきました。その点では今回の中小企業庁の取り組みは、健全な業界作りの観点で一歩前進したと思われます。一方でこの資格試験に実効性を持たせるためには、試験合格者とそうでない者に何か明確な「何か」をもたせる必要があるかと考えます。試験に合格していなくてもこれまで通りと同様にM&A仲介(アドバイザー)業務を行うことができるのであれば、この試験制度は単なる能力検定にすぎなくなってしまうでしょう。例えば免許制でないとしても、連動すると思われる中小M&A支援機関制度(現時点で3000弱の登録がある)をもっと踏み込んで改革することで、より実効性を持たせることができる試験制度になるのではないか、と考えます。
この記事の執筆者
- この記事の執筆者
- 公認会計士 門澤 慎