中小企業庁は令和3年8月より、令和3年4月28日に中小M&Aを推進するための今後5年間に実施するべき官民の取組を取りまとめた「中小M&A推進計画」に基づき、M&A支援機関に係る登録制度を創設しました。これを受けて、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)において、M&A支援機関の活用に係る費用(仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用等に限る。)については、予め登録されたM&A支援機関の提供する支援に係るもののみが補助対象となりました。
以前のコラム「親族外事業承継におけるM&A業界で指摘される問題についての考え方① ~仲介取引における利益相反問題~」でも触れましたが、M&Aアドバイザー業務は資格を必要としないビジネスです。そのためどんな業界にいた人間でも思い立ったその時点でM&Aアドバイザーを名乗ることができます。その結果、M&Aマーケットの拡大とともに、M&Aアドバイザーと名乗る業者が大きく増加し、中には能力や倫理観が欠如している業者も散見されるようになりました。これに対して中小企業庁は、特に売り手のオーナーが適切なM&Aアドバイザーを見つけることができるように、上述のM&A支援機関登録制度を創設するとともに、M&A支援機関に登録するための要件として、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言することを規定し、また要件を充足している旨を自社HPで掲載すること、要件を充足している旨を顧客に書面で事前説明すること、毎年度、実績報告を提出することを求めました。それではこのような背景や制度設計で出発したM&A支援機関登録制度ですが、現在、どのような登録状況なのでしょうか。
2022年12月16日現在の登録者の状況は以下の通りです。
全登録者数は2,817件もあり、その属性は、M&A専門業者、士業、金融機関、その他と多岐に渡ります。
一方で、全登録機関の70%程度が0~2名規模となり、10名以上は4%程度しかありません。また全体の半分程度は2020年代に設立された組織となります(つまりこの1~2年以内)。
上記の結果を見ると、中小企業を対象にしたM&Aアドバイザーはこの1~2年で設立された0~2名程度の小規模な業者が多くを占めることがわかります。登録されていない業者まで含めるとその数はもっと大きな数となるでしょう。
もちろん小規模でも質の高いサービスを提供するアドバイザーは存在します。しかし小規模の新規参入業者が大半を占める中小M&Aアドバイザー業界はまだまだ不安定であることは間違いありません。今後、倫理観の低い会社やサービスの質(それに加えM&A業務なので会計・税務・法務・ファイナンス等の専門知識)の低い会社が(規模や社歴に関わらず)淘汰されていくことでしょう。そしてそのプロセスの中で、中小M&Aアドバイザー業界より健全で成熟した業界に向かっていくものだと考えます。
この記事の執筆者
- この記事の執筆者
- 公認会計士 門澤 慎