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M&Aの取得価額とのれんの減損に関する考え方

2019.11.29コラム

近年、M&Aにおける取得価額が増加傾向となっていると言われており、(直感ではありますが)私もそのように感じる時があります。
いくつか理由があると思います。

  • 魅力的な投資先がないためおカネの振り向け先がないこと
  • 投資家の短期利益志向により多くの上場会社等がM&Aにより事業を短期で伸ばそうと考えていること
  • 事業承継問題や上場会社のカーブアウトが一般的になってきたことにより売りたいと考える企業が増えたこと

等が要因に挙げられるでしょう。

我が国でM&Aの市場が活発になること自体は歓迎すべきことです。以前の日本は(会社または事業を)売る=負け、みたいな風潮もあり、なかなかM&A市場が活発化しませんでした(バイアウトファンドも「ハゲタカ」と呼ばれる始末で、ネガティブなイメージが先行していました)。
やっとM&A市場が活発化し始めた時にリーマンショックが起こり、市場が冷え込んでしまいました。
公表ベースの案件数でみても、
1999年は凡そ1,000件だったのが、2005年~2007年では2,500件を超すレベルまで案件が増えましたが、リーマンショックにより2011年には凡そ1,500件程度まで冷え込みました。その後は徐々に案件数が増え始め、2018年には3,500件を超すレベルまで増加しています。

日本国内のM&A件数の年度別推移
(出典:株式会社レコフデータより、PMAにてグラフ作成)

M&Aは重要な経営戦術

M&Aは企業が成長する重要な戦術の一つです。
企業が立案した戦略を達成するためM&Aを用いることで、シェアを拡大する、技術を獲得する、人材を獲得する、時間を買う等、が(一気に)可能となり、結果、企業価値を向上させることができます。
そのため最近ではどの企業もM&Aを戦術の選択肢に入れていることと思われます。

のれんとのれんの減損の考え方

しかし、最近では(結果的ではありますが)高値で会社を買っている企業が散見されます。特に上場企業ではその状況を「のれんの減損」によって観察することができます。
「のれんの減損」とは、取得価額と時価純資産の差額(無形資産に振り分けられる金額=PPAによる金額を除き)が超過収益力たる「のれん」となりますが、この「のれん」を回収できないと判断され回収可能価額まで切り下げる(=減損)会計処理のことです。

端的に言うと、当初見込んだ期間内で見込んだキャッシュフローを生み出すことができなかったので、回収できる金額まで切り下げます、ということです。ASBJ(企業会計基準委員会)の最近の「のれん」の会計処理を巡る議論の中でも、取得のれんの残高増加が続いていることについて懸念を示すコメントがありました。

参考:ASBJ 「コメント募集「識別可能な無形資産およびのれんの事後の会計処理」に対するコメント

M&Aにおける株式価値を決める重要な考え方

M&Aにおいて、買収する際の株式価値を決める重要な要素にキャッシュフローがあります。
買った会社から将来どれだけのキャッシュが生み出されるか、ということです。
そしてもう少し買い手目線で分解すると以下のように考えることができます。

買い手の取得価額=売り手の会社のスタンドアローン価値+シナジー価値

すなわち売り手の会社がそのまま生み出すキャッシュをスタンドアローン価値として、その上で買い手が買うことで増やすことができるキャッシュをシナジー価値と考え、その合計額が買い手の取得金額(の上限)となる、という考え方です。

シナジーの定量的な把握と事業計画への落とし込みが重要

ここで、昨今のれんの金額が増加し、そして減損が目立つようになっているのは、上記の式のうち、シナジー価値の見積りが甘いことに起因しているのではないか、と思われます。
シナジー価値を株式価値にしっかりと落とし込むためにはシナジー価値をしっかりと定量化し、蓋然性の高い事業計画を策定する必要があります。
しかしこの部分が甘い(将来を強気にみてしまう、定性的な検討に止め定量化しない、定量化する力がなくそのための専門家も採用しない等の理由)ためシナジー効果の見積りを誤ってしまい、とにかくM&Aを実行したい気持ちばかりが先行してしまった結果高く買ってしまう、ということが起こっているように思えます。

今後、のれんの減損がより目立つようになってしまうと、M&A=リスクが高い、というイメージがついてしまい、またM&A市場が冷え込んでしまう可能性もゼロではありません。そのようなことになると、売り手だけでなく買い手としても重要な戦術たるM&Aという手段を選択しにくくなります。そのため高値掴みをしないM&Aを実行するためにも、買い手はしっかりとシナジー価値の定量化を行い取得価額を精緻に検討することが重要となります。

この記事の執筆者

この記事の執筆者
公認会計士 門澤 慎

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