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「株式交付」制度の創設によりM&Aがより柔軟に!?

2019.10.23コラム

我が国でもM&A実務が定着し、公表されているM&Aの件数も3,000件を超え4,000件に近づいてきています。これは1日10件以上のM&Aが行われている計算で、未公表の案件を含めるとさらに多くの案件が積みあがっていることが想定されます。

「株式交付」制度M&Aが、より柔軟に!?

一般的なM&Aでは現金を対価に株式を取得する

通常M&Aでは、ある会社が対象会社の株式を取得します。そしてその取得の方法は「現金による取得」かもしくは「株式による取得(株式交換)」が用いられます。現金による取得はみなさんもイメージがつきやすいと思います。ある会社の株式を取得する代わりに現金を支払う、つまり日常の商取引と同じです。当然、株式は0%超~100%以下の範囲で自由に設定できます。つまり何株でも現金で買うことができます。

株式を対価に取得する方法もあるものの、利用できる場面は限られる

それに対して、「株式による取得(株式交換)」は、現状の規定では「完全子会社化」をする場合以外に使用することができません。完全子会社化とは対象会社の株式を100%取得することです。つまり51%だけ取得する場合や、60%から80%に持ち分を増やす場合には使うことができません。同じく株式による取得の場合としては、「現物出資」という方法もありますが、原則として裁判所の選任する検査役の調査が必要となり、有利発行規制の適用を受けるなど法的な制約が多く、利用できる場面は限られます。

会社法における組織再編の規定が、M&Aの対価に柔軟性をもたらした

企業は様々な経営課題を解決するため、自社で稼いだお金や銀行から借りてきたお金を使って多額の投資をし続ける必要があり、M&Aも企業が経営課題を解決する手法の1つです。そのため企業は現金をある程度持っている必要があります。投資の1つであるM&Aをする際、現金ではなく自社の株式を使うことができることは、企業側からみて非常に使い勝手のよいものとなります。商法から会社法へと変わる中で、組織再編における規定において対価の柔軟性が強く求められたことで設けられた「株式による取得(株式交換)」の規定により、M&Aという手法がより広がったはずです。

トレンドは100%株式取得に限らない、資本業務提携も経営戦略の選択肢に

しかし、昨今の企業の経営戦略においては、M&Aにより100%株式を取得する(つまり自社のグループ化する)だけでなく、協業関係を構築してwin-winの関係を志向する企業が増えています。
いわゆる資本業務提携です。株式の一部を取得するとともに業務提携を結び、協業関係を構築してビジネスを展開する手法です。

株式交換では資本業務提携を実施できない

ただし資本業務提携は株式の”一部”取得であるため「現金による取得」のみしか使えません。そのため手元現金に余裕のない会社は(資本業務提携をしたほうがビジネス上プラスであったとしても)中々踏み切れなかった会社も多々あると思います。                         

改正会社法で議論されている「株式交付」制度について

ここで最近議論されている会社法改正の提案の中に「株式交付」というものがあります。これは「完全子会社化」でしか使えなかった「株式による取得(株式交換)」が、一部の株式取得の場合でも(「現物出資」の場合の規制の適用を受けずに)使うことができるというものです。この制度が設けられた場合、100%未満の株式取得によるM&Aや、資本業務提携における株式取得の場面においても、「株式による取得(株式交換)」を使うことができます。
これは非常に使い勝手のよい手法です。この制度改正が実施された場合は、これまで以上に企業のM&Aや資本業務提携が活発化する可能性があります。

「株式交付」制度により、M&A・資本業務提携等がこれまで以上に活性化すると期待

株式交付制度については法律面の議論に加え、税務面の議論もなされているところで、まだ正式には決定されているものではありませんが、成立の可能性は非常に高いと思われます。
今後の法律面・税務面の議論を注視しつつ、改正後はこの制度により、企業が経営課題解決の手段の1つとしてのM&A・資本業務提携をこれまで以上に柔軟に活用することで資本市場が活性化すればと思います。

この記事の執筆者

この記事の執筆者
公認会計士 門澤 慎

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