会社を買う時、または会社を売る時、色々なことを検討することになりますが、まず間違いなく検討しなければならないことは、会社の価値です。いくらで買うべきか、いくらで売るべきか、ここがしっかりと固まらないと交渉をスムーズに進めることができません。
そのためM&Aのプロセスにおいて、会社の価値を決めること=株式価値算定は非常に重要となります。
本コラムでは、会社の価値を決める手法について、その考え方をわかりやすくご紹介します。
M&Aの実務では、大まかに、以下4つの方法で会社の価値が決められているように思われます
DCF法は、その企業が生み出す将来キャッシュフローの合計額に着目した方法で、ファイナンス理論に基づいた考え方となります。
会社のフリーキャッシュフロー(税引き後営業利益+非現金支出費用-設備投資額±運転資本増減)を割引率で割り引いた金額の合計額を事業価値として、以下の式により株式価値を算出することになります。
株式価値=事業価値+非事業資産-有利子負債等
理論上はこの方法が最も適切とされているので、大規模なM&Aではまず間違いなく採用される方法であり、近年では株価訴訟における鑑定書等でもDCF法が用いられています。しかしこの方法は少々複雑なため理解するためには専門的な勉強が必要となります。
一方、純資産法は、端的に言うと、会社の純資産=株式価値、とする考え方で、なじみがあるかもしれません。
ただしこの純資産を簿価で考えてしまうと、例えば資産の含み益や含み損が反映されないので、あまり意味のない金額となります。
そのため純資産法を使う場合でも、資産負債を極力時価に直した時価純資産を使うことになります。
しかしM&Aの世界では実はこの純資産法はあまり使われません。
M&Aを行う場合は、一般的にはその対象となる企業を買収して継続的に経営をしていくことになるため、その株式価値は継続企業が前提(動的価値)となります。
しかしこの前提に対して、純資産法はいわゆる解散価値(今会社を解散したらいくらになるか)が前提(静的価値)となります。
そのため、継続企業を前提とした株式価値にはそぐわない、と言われています。
特に事業承継の現場でよく使われているのが、年倍法です。2番目にご紹介した純資産に利益の3~5年分を加算したものを株式価値と考える方法です。
この方法は仲介会社を中心として大きく広がった方法です。
2の純資産法の改良版として、また簡便な方法であるため、みなさんもよく見かけるかもしれません。
しかし株式価値算定の世界においては、この方法は理論的ではないため基本的には使われることがありません。
また純資産に加算する、「利益の3~5年分」に使われる利益についても、人によっては営業利益を使ったり、経常利益を使ったり、はたまた当期純利益を使うケースもあります。
使う利益について何か理由があればまだよいのでしょうが、価格調整を行うために、恣意的に使う利益を選択するケースも散見されます。
そのため年倍法によって算出される株式価値はあくまで参考値として捉えたほうがよいでしょう。
対象企業(株式価値算定をしたい企業)が属している業界の上場企業の倍率を基準として、対象企業の株式価値を算出しようとする方法です。
倍率にもいくつかありますが、よく使われるのがEBITDA倍率と呼ばれるものです。
EBITDAとは営業利益に減価償却費等の非現金支出費用を加算したものとなります。つまり疑似的な営業キャッシュフローを算出しています。
EBITDA=営業利益+非現金支出費用(減価償却費、のれん償却費等)
EBITDAに倍率をかけることで事業価値を算出します。この事業価値に現預金を足して有利子負債を引けば株式価値が算出されます。
ここで用いる倍率は、対象企業が属している業界の上場企業のEBITDA倍率となります。この倍率は業界によってまちまちですが、平均すると6~8倍程度となると言われています。
しっかりと株式価値算定をする場合は、業界のEBITDA倍率を計算する必要がありますが、初期的な検討においては6~8倍を使って計算をしてみる、といった方法も有効でしょう。
株式価値=EBITDA×●(6~8倍)倍(=事業価値)+現預金-有利子負債等
理論的には1のDCF法と4の類似会社比較法は一致すると言われています。
株式価値算定の方法といっても様々な考え方、方法があります。
更に、未上場の企業は一定のディスカウントを考慮するケース(非流動性ディスカウント)もあります。
そのためどれか1つの方法のみで計算した株式価値で判断するのではなく、複数の方法により株式価値を計算し、それらの前提となる考え方と対象企業の状況をよく勘案し決定することが肝要だと思われます。
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