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スタートアップ企業の株式価値評価とは?~日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第70号「スタートアップ企業の価値評価実務」を読んで~

2023.10.17コラム

スタートアップ企業の株式価値評価とは?                              ~日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第70号「スタートアップ企業の価値評価実務」を読んで~

2023年3月16日に日本公認会計協会が経営研究調査会研究報告第70号「スタートアップ企業の価値評価実務」(以下、「研究報告第70号」という。)を公表しました。スタートアップ企業の株式価値評価は、将来の期待とそのリスクをどのように価値に反映させるかが難しく、M&Aの現場や資本政策の現場でも大きな論点となります。本コラムでも以前に「ベンチャー企業のバリュエーション」というコラムで米国公認会計士協会が公表したベンチャーキャピタルレートを使ったDCF法を紹介しました。今回は米国公認会計士協会が公表したベンチャーキャピタルレートを使ったDCF法による評価方法も含め、研究報告第70号が各評価方法をいったん体系的にまとめておりますので、その内容に沿って各評価方法の考え方と、特にインカム・アプローチにおける評価方法について簡単に解説していきたいと思います。

 研究報告第70号では、スタートアップ企業の評価方法についても一般的な企業価値評価方法の体系に従い、①インカム・アプロ―チ、②マーケット・アプロ―チ、③ネットアセット・アプローチ、の3つの評価方法に類型化しています。その上で、3つの評価方法についての考え方を述べ、最も一般的に採用されている評価方法として①インカム・アプロ―チを挙げています。②マーケット・アプロ―チについてはマイノリティ出資で事業計画が入手できないためインカム・アプローチの採用が困難な場合や、インカム・アプローチに比べ簡便であることから積極的に採用されているケースがあるとした上で、事業の類似性や事業ステージの点で類似上場会社の選定が困難であること、足元業績が赤字であるため使用可能な倍率が売上高倍率等しか使えないこと等の理由により、慎重な検討が必要であるとしています。またネットアセット・アプローチについては、将来の革新的なビジネスモデルにおける超過収益力が反映されないため、一般的にスタートアップ企業の価値評価には適合しない評価アプローチとしています。

それではスタートアップ企業の価値評価方法として最も一般的に使われるとされるインカム・アプローチですが、具体的にどのような評価方法が使われているのでしょうか。研究報告第70号では、本コラムでも以前に紹介をした、VCレートを用いたDCF法が実務上最も一般的に使用される方法として挙げています。そして、AICPA(米国公認会計士協会)評価ガイダンスを基にして、ステージごとの研究開発点・ビジネスの状況、リスクの状況、主たる出資者及び事業計画の状況を加筆したステージ別割引率(ハードルレート)として、以下の図表を公表しました。

図表Ⅳ-2 「AICPA評価ガイダンス」を基にしたステージ別割引率(ハードルレート)

ただし、上記VCレートを適用する場合には、事業ステージの見極めが主観的にならざるを得ないため、対象事業・企業の外部環境及び内部環境分析又はヒアリング等を通じて慎重に検討する必要があるとしています。また研究報告第70号ではVCレートを使ったDCF法における継続価値の算出で、通常の永久成長モデルに加え、Exit Multiple法(計画最終期に見込まれる成長性等が類似している類似会社の倍率を適用)も紹介し、2つも方法のいずれか、または双方を使用するとしています。VCレートを用いたDCF法以外の評価方法として、ベンチャー・キャピタル法、確実性等価キャッシュ・フロー法(CEQ法)、ファーストシカゴ法、リアルオプション法も紹介されていますが、研究報告第70号では、実務上、使用される頻度が低いため、参考程度の記述に留めるとしています。

以上が研究報告第70号におけるスタートアップ企業の価値評価方法における考え方でした。個人的には研究報告第70号に大きな発見はありませんでしたが(考え方にズレがなかった)、一方でAICPA評価ガイダンスに基づいたVCレートを我が国の評価でも使用し続けることには若干の違和感を持ちました。米国と我が国におけるスタートアップマーケットにはまだまだ大きな差があるため、米国のマーケットを基準としたレートから我が国のマーケットに即した一定程度の補正が必要だと考えます。これはスタートアップ企業の価値評価における今後の課題となるでしょう。また種類株式の評価についても実務上、大きな論点となっています。種類株式の評価については研究報告第70号でも記述されていますので、まだどこかで取り上げたいと思います。

経営研究調査会研究報告第70号「スタートアップ企業の価値評価実務」

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公認会計士 門澤 慎

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