みなさん、M&Aの本を読んだり話を聞いたりした時に、よく「DD」という言葉を、耳にすると思います。なかなか聞きなれない言葉ですし、もしかすると、本を読んでみても「色々な専門家が会社を調査すること」程度のイメージしか持てないかもしれません。そのため今回はデューデリジェンス(以下「DD」)について、簡単に説明したいと思います。
DDに登場する専門家と範囲
みなさんは「DD」と聞いて、どのような専門家を思い浮かべますでしょうか。全く見当がつかない方もいらっしゃるかもしれませんが、少し本を読んだりM&Aのプロセスについて誰かに聞いたりした方は、会計士、税理士、弁護士あたりの専門家を思い浮かべることと思います。これら専門家は通常のM&Aでは凡そ登場することになります。会計士は「財務DD」を実施し、税理士は「税務DD」を実施し、弁護士は「法務DD」を実施します。
財務DDで見るポイントやその狙い
「財務DD」は対象会社の過去の財務諸表や決算書をベースに実施されます。そこで対象会社の株式価値を適切に算定する情報(正常収益力や実態純資産、設備投資や負債の額等)、売上や仕入れに関する事業別相手先別の情報、資金繰りの状況、決算書に計上されていない負債の有無、会計処理方法や内部統制(管理状況)の状況、その他多くの財務会計情報を入手し、検討することになります。
税務DDで見るポイントやその狙い
「税務DD」は対象会社の過去の申告書等をベースに税務処理の適切性を確認することになります。またこの際に確認しなければならないことは、過去の税務調査の時期です。直近で税務調査が入っている場合はそれまでの税務処理は概ね妥当であると判断することができるため税務リスクが低くなる一方で、長い期間税務調査が入っていない場合はその間の税務処理のチェックを受けていないことになるので税務リスクが上がってしまいます。その場合は「税務DD」の範囲や深さを広げる必要が出てくるでしょう。
法務DDで見るポイントやその狙い
「法務DD」は対象会社が締結している取引に関する契約書の確認や、会社の設立に関する確認(定款や株券等)、許認可や権利関係の法的な確認、人事労務に関する確認、その他多くの法的な確認が行われます。またこの「法務DD」で確認される事項の中で重要な項目の一つに「チェンジオブコントロール(COC)条項」というものがあります。これは対象会社の経営権に移動が生じてしまった場合に、その契約内容について契約の相手方が制限をかけたり解除したりすることができる条項となります。仮に対象会社の現状の契約内容に問題がなかったとしても、買い手が対象会社を買収した時点でCOC条項が発動することで、契約内容に制限がかかったり解除されてしまったりした場合は、買い手は当初の想定通りに会社を経営することができなくなります。そのため「法務DD」を通してこのCOC条項の有無を確かめ、会社を買収する前に対応策を検討することが必要となります。
DDで問題点が検出された場合の対応方法
そしてこれらDDで検出された問題点は、基本的に、定量化できるものと定量化できないもの、に分けていきます。(交渉にもよりますが)定量化できる問題点は株式価値に織り込み(つまり価値が下がる)、定量化できない問題は株式譲渡契約書に反映させていくことになります。
DDの範囲や深さはM&A案件に合わせてしっかりと検討することが必要
以上が一般的なDDとなりますが、これら以外にも対象会社のビジネスの構造や強さ、将来性を確認する「事業DD」、保有している工場等における環境上の問題点(土壌汚染や大気汚染等)の有無を確認する「環境DD」、ITシステムの環境や状況を確認する「IT DD」等があり、これらはM&A案件の特性によって実施するか否かを判断することになります。
このように一般的な「財務DD」「税務DD」「法務DD」に加え、「事業DD」、「環境DD」、「IT DD」等、様々なDDがあります。DDは一般的に対象会社に関する情報の少ない買い手が、対象会社をしっかりと調査することができる重要なプロセスとなります。そのため、各M&A案件でどのようなDDが必要なのか、しっかりと考える必要があるでしょう。
この記事の執筆者
- この記事の執筆者
- 公認会計士 門澤 慎