中小企業では会社が銀行から借り入れをする際、社長が個人保証を求められるケースがよくあります。おそらく額の大小はあれど、中小企業の社長は個人保証をしていると思われます。そしてこの「個人保証」が事業承継(親族内であれ親族外であれ)しばしば問題になります。
例えば従業員に会社を継いでもらう場合を考えてみましょう。親族に適切な人材がいない場合は、能力があり経営にも意欲のある従業員がいればその従業員に経営を任せたいと考えるのは当然のことです。しかしこれまでの日本(の金融機関の慣行)では、新たに代表取締役社長に就任するということは、会社の借り入れに関して個人保証をすることが当たり前だと思われ、実際、前任の社長から新任の社長へ個人保証が引き継がれていました。そのため従業員が代表取締役社長候補の場合、本人やその家族が個人保証を負うことに尻込みをしてしまい、そのことによって承継を断念するということが多々発生していました。ただでさえ経営人材が不足している中小企業(そして日本)において、大きな損失となります。また親族外事業承継で外部に売却をする際でも、金融機関によっては前経営者(売り手)の個人保証をそのままにすることを要求するケースもしばしばあると聞きます。これでは怖くて会社を売却する決断ができません。
しかし昨今、少しづつ状況が変わってきました。2013年1月に金融庁と中小企業庁が有識者との意見交換の場として「中小企業における個人保証等のあり方研究会」を創設したのが発端となり、新事業を生み出し、開廃業率10%台を目指す施策として経営者保証に関するガイドラインが必要という結論となりました。そして金融庁・中小企業庁関与のもと日本商工会議所と全国銀行協会が共同で「経営者保証に関するガイドライン」を公表したのです。
ガイドラインの目的は、保証を提供せず融資を受けたり保証債務を整理する際に、経営者および金融機関共通の自主的なルールをつくることで、中小企業の創業や成長、事業承継などへの取り組みがより増進する環境を整えることです。「経営者保証に関するガイドライン」では、企業と経営者の関係が明確に区分・分離され、財務基盤が強化されていることが大前提です。そして、透明性の高い経営が確保されている場合には、経営者保証なしで融資を受けられるような指針が示されています。さらに2019年には、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドラインの特則」が公表されました。特則では、前経営者と後継者双方からの二重の保証を原則的に禁止するなどの方針が明確になっています。
あくまでもガイドラインであって努力義務ではあります。しかし一方で金融機関としても、会社側から要望が出た場合には、真摯に対応をしなければいけないとされています。そのため事業承継のタイミングに合わせて、現在の借入金についている個人保証を外すための折衝を(顧問税理士やその他専門家も必要に応じ味方につけつつ)金融機関とすることが有益でしょう。
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- 公認会計士 門澤 慎