
中小企業庁が「中小M&A市場の改革に向けた方向性について(第4回)」を公表しました。そこには中小M&Aに関する様々な論点が記載されていますが、その中でも特に重要な論点として、「資格試験概要、登録・管理制度について」があります。中小M&A市場における資格試験については、今回初めて公表されたわけではなく、2025年6月に開催された「中小M&A市場の改革に向けた方向性について(第1回)」で触れられています。
過去の弊社コラム2025年7月『中小M&A業務の試験制度について』、2025年9月『中小M&A市場改革プラン」を読んで』でも解説していますが、あくまで試験制度の大枠を提示したのみで、資格試験制度のコンセプトや試験科目の考え方、難易度等が提示されてはいませんでした。
今回公表された「中小M&A市場の改革に向けた方向性について(第4回)」では、中小企業庁内で設置された資格制度ワーキンググループでの議論を経た資格試験制度のコンセプトや試験科目の考え方、難易度等に関する情報が一定程度、公表されました。それでは具体的にどのような試験になるのでしょうか。
➀ 試験のコンセプト
当該試験は、「中小M&Aに関する実務的な広範の知識習得に加え、高い倫理観・規範意識の涵養を行うことが重要である」とされています。これは資格試験であるため知識の確認はもちろんですが、昨今、中小M&A市場で社会問題化する事案が散見されることから、中小企業庁は中小M&Aの支援人材に高い倫理観と行動規範意識を求めていることが見て取れます。
また、本試験は「独占業務の実施を可能とする試験ではない」との記載もあることから、中小企業診断士のような位置づけの試験として、知識や倫理観の水準を確認する試験となります。この点、独占業務がないと罰則規定が弱くなるという指摘も想定されますが、「個人レベルでの倫理観の浸透の観点から、中小M&A資格試験合格者の登録制度も併せて運用し、倫理規定遵守や定期的な講習受講等を要件として、登録者はデータベースに氏名公表し、倫理規定違反が認められる場合には氏名公表・取消し等」を行うことで、合格者の継続的な質の担保を図る運用を想定しています。
➁ 難易度
難易度の基本方針としては「M&A実務を行っている者であれば、習得しておくことが期待される基本的な水準(一般的な社会人が一定期間の学習を行えば合格できる水準)」を想定しています。そのため他の国家試験と比べて、そこまで難易度を高くしないように思われます。合格基準点を総得点の70%~80%かつ科目別合格最低基準(50%程度)としていることからも、知識の深さよりも網羅性を重視する試験となるようです。また倫理では禁忌肢の設定を検討しています。これは試験のコンセプトとして倫理・行動規範を重視するという強いメッセージと考えられます。
➂ 試験科目
試験科目は4科目(M&A実務、財務・税務、法務、倫理・行動規範)とされました。また試験はCBT方式による全体60問の試験となります。試験時間の目安は120分程度です。4科目のうち、M&A実務は全体の35%~40%の問題数、倫理・行動規範は全体の25%程度の問題数とされ、科目の中でも重きが置かれています。この点、試験のコンセプトでもある、中小M&A支援人材のスキル面でのレベルアップと倫理・行動規範の醸成を図る目的が強く反映されています。
このように、ついに中小M&A市場でも試験制度が導入される運びとなりました。社会問題にもなった不適切な買い手問題をはじめ、中小M&A市場は数多くの問題を抱えています。そして市場がそうなってしまった理由の一つとして、中小M&A支援を行う専門人材に資格要件がないため、誰でも名乗れば市場に参入できてしまうということが挙げられてきました。今回の資格試験制度は独占業務とする制度ではないので、抜本的な問題解決にはなっていないかもしれません。しかし、少なくとも中小企業庁が主導して一定の質と倫理観を担保する資格試験制度を創設したことは、業界が(少しでも)健全となる大きな一歩だと考えます。この試験制度を今後運用していく中で、よりブラッシュアップされた制度となっていくことでしょう。私もこの業界にいる人間として、少しでも業界の健全化に貢献できればと思います。
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この記事の執筆者
- 公認会計士 門澤 慎