COLUMN

コラム

M&Aを活用した事業拡大という経営意思決定について ~大手傘下に入ることを選択した経営者の想い~

2020.07.15コラム

「株式を売って終わり、立ち上げまでが自分の使命、等の理由で起業し、株式を売却する手法を取る経営者もいると思います。私は株式を売却することによってさらにその会社での経営にコミットする、そういう想いで株式の譲渡の意思決定をしました。」
そう語るのは、株式会社スタイルガーデン(以下、「スタイルガーデン」)の中川社長。
株式会社ジェイ・エス・ビー(以下、「ジェイ・エス・ビー」)へのグループ入りに至る裏側を、インタビューを通して伺いました。

「第0新卒」という大学生向けの事業モデルを構築しているスタイルガーデン。今後更なる拡大には『学生への認知度・拠点・信用力・資本力』を兼ね備えた企業との連携が不可避だと考え、2020年7月1日、ジェイ・エス・ビーグループの傘下にグループ・インしました。
ディールが始まるまでほとんどM&Aや株式の譲渡などを検討してこなかった中川社長が、なぜM&Aを検討し、なぜジェイ・エス・ビーを選んだのか、その背景を含めたいきさつをお聞きしました。

「第0新卒」という事業への専念の苦悩、その先に見えた事業の可能性と、更なる拡大に向けたジレンマ

中川社長の写真

スタイルガーデン創業の背景を教えてください。

弊社は2014年に個人事業主として始めた事業を2015年に法人化する形で設立されました。
弊社取締役の西村には創業直前に出会いましたが、当初は別々で独立をする方向で共通の友人の紹介により情報交換のために話をしたことがきっかけです。共に社会に対して違和感を感じていたことが『若年者のキャリアに対するネガティブなイメージ』でした。その場で意気投合し、同じ課題を解決するために共にスタイルガーデンをスタートしました。
創業から約1年間は毎月ずっと赤字で、単月黒字化が見えてきたタイミングで法人化することを決めました。

貴社のビジョンをお伺いできますでしょうか。
《経営理念》
お節介であり続け、熱狂を生み続ける
《第0新卒事業ビジョン》
応援を生み出す人材へ

実は何度もビジョンを変更してきております。
意図的には常に「どのような組織だろうが、どのような職種だろうが、自らチャンスややりがいを創り出し自己実現を叶えながらも社会で活躍できる人材」という意味なのですが、弊社が支援するような大学生の立場からした際に、『社会』や『活躍』というと、あまりにも遠いメッセージになってしまいます。
そこで大学生でも理解しやすいビジョンに作り変えてきました。
より手段的ではありますが、まずは応援を生み出す人材になり、その結果、自己実現力を手に入れるという段階を置くことで大学生でも共感しやすいメッセージに着地しました。
ジェイ・エス・ビーグループは、「健全な若者の育成と魅力溢れる社会の実現」を理念に、学生マンション事業を中心として多事業の展開を進めています。不動産領域に捉われず将来の社会を担う若者の成長支援を行っていくという点で、弊社の目指す目的と一致しました。手段の一致ではなく、目的の一致がグループ入りする上で不可欠なポイントでした。

事業運営する上で心掛けていることはございますか。

弊社の会社としての目的は、「応援を生み出す人材」を社会に輩出し続けることによって、どのような状況であろうが自身が望む未来を自らの力によって手に入れられる人々で日本中を溢れかえらせること。つまり、学生に対し、本質的な教育を行うことによって自己実現力を持った人間に成長させることです。
この目的を達成するために必要なインプット教育、アウトプットの仕事環境を制限なく提供し続けることができます。これは主の事業を持って、長期インターンシップを運営しているような一般の会社では実現できません。なぜならば一般の会社はその事業を大きくするために存続しているため、学生の成長を最優先事項に置いてしまうと目的と相反する結果を招いてしまいます。
弊社は学生の成長を最優先事項に置いて事業を運営しなければ目的が達成されないため、事業内容は一切縛られることがありません。
時代の流れや状況によって、学生の成長に必要な事業内容は永続的に進化、変化し続けることができます。
弊社の事業によって生まれた利益はより多くの学生に、より意味のある経験を提供できる環境整備のために使われて循環していくこととなります。その結果、一般的な長期インターンシップを超える、『第0新卒』の価値を提供できるように、会社運営を行うように心がけております。

創業してから今日まで、経営する中で苦労することはありましたか。

法人化後、最も悩んだことが「想い」と「ビジネス」のバランスです。今は第0新卒事業に専念して会社運営に取り組めていますが、その中で、大学生の教育とは異なる組織コンサルティング事業やその他会社の利益を出すために様々な事業を両立して走らせていました。
その結果、会社がスケールせずに停滞し、全てが中途半端な状態となり、今思えば当時は社員の心もバラバラだったと思います。

そんな中で、第 0 新卒という事業に専念し、業務をより集中された経緯はなぜでしょうか。

様々な事業を両立して走らせてきた中で、創業時の目的ではなく、会社の利益を出すことが目的になってしまっていることに気づき、2019年1月から第0新卒事業一本で会社を運営することに決めました。
一本化すると確実に「ビジネス」の観点から見た場合の収益性に変化が出ることが目に見えていました。
会社を経営していると会社を存続させ続けるということが最も重要視されるようになるかと思いますが、会社の存続目的を満たさない存続は無意味だと思います。
生きるだけならば会社員に戻ればよいですし、社員もそのような考えを持っている者しかいなかったこともあり、このような決断を行いました。
2019年6月期は、想定通り売上・利益に変化が出る結果となりましたが、社員全員で第0新卒のみに集中して取り組んだ結果、想いをぶらさず目的を見失わないようにしながらも、ビジネスとして収益を上げ続けるということができ、2020年6月期の時点では、過去最高の単月売上・利益も達成することができました。
この経験を経て、覚悟を決めて取り組めば「想い」と「ビジネス」のどちらも達成できることが可能だと確信しています。

その中で、株式の売却の検討をし始めたのはいつ頃ですか?

第0新卒事業に一本化しようとした2019年1月頃から検討し始めました。同年代の経営者の友人がベンチャー・キャピタル等から出資を受けたり、M&Aで株式譲渡する人が出てきたこともあり、今の時代は色々な選択肢があるのだと気づかされたことがきっかけです。

検討をし始めた際に、ご相談をされた方はいらっしゃいましたか?

同年代の経営者の友人に相談致しました。

プルータス・マネジメントアドバイザリー(以下、「PMA」)の担当はどのようにお知りになられたのですか?

上記の経営者仲間の方からの紹介です。

株式を売却する上で重要視していたポイントはいかがでしょうか。

1番は弊社の目指す世界感に共感してもらうと同時に、グループ・インすることで、自分が描く将来のビジョン達成の阻害要因にならないかどうか。
その上でシナジーを活かすことができるかどうか。という点をポイントとして考えておりました。

自身の母校でよく見かけた学生マンション、運営するジェイ・エス・ビー社の拠点ネットワークに対しての可能性と、面談での意気投合。

なぜジェイ・エス・ビー社に打診したのでしょうか。

私は通っていた大学が、京都の同志社大学なのですが、ジェイ・エス・ビー社の運営するユニライフの店舗が同志社前にあったため大学時代からよく見ることがあり、元々認知していました。
既に大学生に対する認知度、拠点ネットワーク、信用力、資本力の要素を持ち合わせており、弊社に不足している要素を全て兼ね備えていたのがジェイ・エス・ビー社でした。
逆にジェイ・エス・ビーグループに弊社の独自ノウハウをプラスすることで先方にとってもグループの価値が高まる可能性があると感じたためPMA社の澤西さんに打診を依頼しました。

ジェイ・エス・ビー社との最初の面談はどんな雰囲気でしたか?

取締役・執行役員の方々と面談させて頂きましたが、正直、東証一部上場企業の取締役・執行役員の方々とお会いすると想像していた面談のイメージと違い、非常に熱い想いと、お二方ともジェイ・エス・ビーの将来を真剣に考える中でお持ちの世界観など、ご一緒して目指す方向を一緒に作っていけるような『想い』が強く感じられました。
一方でスタイルガーデンが持つ大学生との距離やナレッジがジェイ・エス・ビーグループにも活きるのではないかと、ワクワクした気持ちも生まれました。

何がポイントで意気投合したのでしょう?

ジェイ・エス・ビー社の持つアセットの親和性はもちろんですが、それ以上にお二方のジェイ・エス・ビーグループの将来戦略と、スタイルガーデンの将来戦略に共通点があり、お互いのアセットを活かしあえる部分でしょうか。
弊社は規模の小さな会社ではありますが、ジェイ・エス・ビー社は、規模に関わらず一企業の経営者として私に接してくださっていることを感じ、一緒になった後も我々の想いを尊重してくださりながら運営に取り組ませていただけるのではないかと感じたことは大きな要素でした。

ジェイ・エス・ビー社との取り組みで、ここは確実に守りたい、という条件はありましたか

こだわった部分は学生への提供価値の深化と、世の中に与える影響力が最大化されるか、この観点を常に大事にしながら検討しました。

初めての株式の譲渡・経営権の譲り渡しに対して真剣に検討した上での交渉。
譲れなかった事業ビジョン。

中川社長の写真

金額面についてはどうお考えだったのでしょうか。

もちろん、創業して苦労を重ねてきた部分もありましたし、創業者としてそれが報われる形になればと思っていましたが、それ以上に、一緒にどのような取り組みができるか、その部分をとにかく意識していました。

ディールを進める上で、苦労されたことはありましたか。

いい意味で自分がトップで、経営というものをジェイ・エス・ビー社のような上場会社基準で行ってきたわけでもなかったですし、従業員・学生ともに自分よりも年上のメンバーがいない中で、東証一部上場企業のガバナンスにあった組織づくりを想定した現状の説明と、その先の取り組みを考えると、非常に考えることや変化することも多く、苦労する部分もありました。

一方で、ディールを進める上で、ご自身の中で考えが変わったことなどはございますでしょうか。

上記とも繋がるのですが、中期計画を前提とした事業計画を精緻に作るなど、このディールを通してジェイ・エス・ビー社との取り組みによって、事業経営に直接いい影響を与える取り組みも様々できましたし、自分自身も考えが整理され、非常にいい経験になりました。

様々な局面の中でご相談をされる方などはいらっしゃったのでしょうか。

機密性の高い情報になるため、なかなか周りの知り合いには相談できませんでした。PMA社の澤西さんだけが頼りだったので1人であれば途中で投げ出していた可能性もあります。アドバイザーの方が自分の価値観と近いものがあるかどうかは、ディールを進める上で、かなり重要だと思いますし、存在価値を非常に感じました。

重要な意思決定をする上で、ご自身の意思決定の軸はどのようにお持ちでしたか。

繰り返しにはなりますが、掲げるビジョンを実現できるか、そして今一緒に事業に取り組む学生にどのような影響があるのか、意思決定をする上では極めて重要なテーマとして検討していました。
それが阻害されるのであれば、条件が良かろうが待遇が良かろうが決断はしていなかったと思います。

ディールを進める上で、ジェイ・エス・ビー社の社員の方々と直接交流を持たれることも多かったのでしょうか。

交渉はPMA社を通して進めましたが、局面に応じてジェイ・エス・ビーの方々と面談やお食事などをご一緒する機会もたくさんありました。
特に取締役の方々と弊社経営陣との会食では、共に目指す目標もはっきりとし、大きなターニングポイントとなりました。

交渉を終えての株式譲渡契約書の調印。プレスリリースで感じる周囲の期待。

本件を初めて従業員や学生の方に開示した際の反応はどうでしたか?

正直多くの学生は株式譲渡の意味やこの取り組みのスキームについて、当事者として腹落ちするほど理解が追い付かない学生もいましたが、特に関西でなじみのあるユニライフブランドを展開するジェイ・エス・ビー社と一緒になることで、より経営基盤が安定し、自分たちの取り組みにもいい影響があるのではと想像する学生もおりました。
ポジティブな反応ばかりで結果として良かったと思っています。

株式譲渡後、周りの友人などからの反応はいかがだったでしょうか。

「おめでとう」と言われることが非常に多かったです。株式譲渡をネガティブに捉える人も世の中にはいると思いますが、周りの方々から見ても、弊社のビジョンを実現するためにグループ参画がその可能性を高めるように見えたのだと思います。

中川社長はご結婚されたばかりだと伺いました。ディールを進める上で、プライベートでのイベントと苦労された点はありましたか?

はい、ディール中に結婚式もあげましたし、新婚旅行にも行く予定でした(※コロナの影響で延期)。
ジェイ・エス・ビーのご担当の方々どなたにご相談をしてもプライベートのイベントも非常に重視してくださり、とても働きやすい環境をお作りなのだろうと感じることができました。

ご家族にはどのようにお伝えされたのでしょうか。

妻はいい意味で私のキャリアを、私に一任してくれている部分があります。
株式譲渡が決まったリリースの際も、普段通りでしたし、自分のキャリアを尊重してくれているなと感じることができましたし、更に今後も業務に邁進していこうという覚悟も強まりました。
また、私の両親はどちらかというと安定志向な性格なので、ジェイ・エス・ビー社のような上場企業グループに参画したことは喜んでいるのではないでしょうか。

この先の人生プランを教えてください。

人生プランは一切決まっていません。視座が上がると人生プランも変わるということを今まで常に経験してきた人生でしたし、まずは今の第0新卒事業を新たな文化にすること。これしか決まっていません。目先の人生を全力で進めば自然と良い未来に繋がっていくと思います。

経営者にとってのFAの役割。仲介ではない売り手選任のアドバイザーだからこそ売主の想いに「立ち切ってくれる」安心感。

中川社長の写真

M&A における FA の役割について、どのように感じましたか?

いなくてはならない存在だと感じました。あまりにも多くの可能性やリスクを検討する必要があるため、経験豊富なプロがいなければ安心したM&Aは行えないのではないのでしょうか。
M&A後のトラブルを聞きますが、やはり専門知識がない当事者同士で進めたケースが多いのではと感じています。
また、当事者間のやりとりでは、直接伝えることで角が立つ場面もあると思いますし、第三者的な立ち回りをしていただくことで、当事者同士が不用意な感情に流されたりすることなく、より建設的な話の進め方ができるとも感じました。
特に私のような創業社長は、自身の会社への想いが強く、どうしても他者からの視点に盲目になってしまうこともあるため、良い意味でのブレーキ効果も感じました。
PMA社はM&Aアドバイザリー事業者の中でも、仲介業務を行わず、片側に立ち切った立場でディールを進めてくれたおかげで、セルサイドとして伝えるべきことを、こちらの立場に立ち切って常に考えてくれた部分を強く感じることができました。

創業した会社の株式を譲渡するということに、今はどのようにお考えですか。

世の中の私たちのようなベンチャー企業の創業者の中には、事業を0⇒1で立ち上げることが得意なため、その後の経営を大手企業に譲るというお考えの方や、株式を譲渡していわゆる「EXIT」を果たす手段としてM&Aを活用する方もいらっしゃると思います。
それぞれの方々の考え方だとは思うのですが、私の場合、むしろ「経営陣として残って事業をより継続的に拡大していくため」の手段として、リソース・アセット豊富な大企業に株式を譲渡して事業拡大する道を選びました。
単独で事業成長を目指すことも企業の更なる拡大に重要な手段だとは思うのですが、大企業の傘下にグループ・インすることで、豊富なリソース・アセットを活用し、事業を継続的に拡大していくこと、そのようなことをM&Aを通して実現できる可能性があると、今回のディールを通して考えるようになりました。

株式を譲渡して良かったことや悪かったことがあれば、教えてください。

良かったことは社員の意識変革です。小さな会社でやっていると井の中の蛙のようになってしまうことがあります。より社会性や対外を意識するようになり、前向きかつ視野が広がったように感じます。
悪かったことはクロージングしたばかりの現状ではまだ感じてはいませんが、小さなオーナー企業としてやってきた今までと比較した場合、上場企業グループとして意識していくべき点が様々起こるかもしれませんが、それは会社や組織が大きくなるために必要なことと捉えれば、今の段階からそのような形を意識して事業に取り組めることはいい機会ではないかと考えております。

株式会社スタイルガーデン 企業概要

会社名:
株式会社スタイルガーデン
本社所在地:
〒531-0072 大阪市北区豊崎三丁目20番9号 三栄ビル7-1-3
設立:
2015年7月
資本金:
3,000,000円
代表者:
代表取締役社長 中川 涼太郎
URL:
https://stylegarden.jp
中川 涼太郎(なかがわ りょうたろう)

2011年同志社大学を卒業後、ピアスグループへ入社。最年少で九州エリアマネージャーへの就任など営業部門でご活躍。
2013年レイスグループへ転職し経営コンサルティング商材の新規開拓営業を行い、年間約500名の経営者に提案を行う。
2014年個人事業主として現在スタイルガーデンの前身となる「Style Garden」を創業。
中川社長の写真

M&A・事業継承に関するご相談を無料で承ります。
まずはお気軽にお問い合せください。

プルータス・マネジメントアドバイザリー所在地:東京都千代田区霞が関3-2-5 
霞が関ビルディング30階 
大阪オフィス:大阪府大阪市中央区本町4-2-12 
電話番号:03-3502-1223 
© PLUTUS Management Advisory Co., Ltd.