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コロナショックの株価下落を考えてみる

2020.03.24コラム

コロナショックにより、世界中の企業の株式価値が大きく減少しています。
業種によっては50%以上も株式価値が下がってしまった企業もあることでしょう。このように全世界的に株価が大きく減少してしまうという事態はリーマンショック以来のことで、その影響の大きさに全世界が警戒をしています。

以下のグラフは2000年3月末の株価を100とした場合の、日本とアメリカの株価の変動幅を示したものです。
2000年以降のTOPIXとダウの価格を2000年を基準としたグラフ

2000年以降の株価下落局面は3つ

2000年以降、日本とアメリカで株価を大きく下げた局面が3つありました。

  • 2003年アメリカがイラク侵攻を開始したタイミング
  • 2008年のリーマンショックのタイミング
  • 今回2020年のコロナショックのタイミング

こう見ると、株価水準自体はイラク侵攻時やリーマンショック時に比べまだ高い水準を保っているものの、短期の下落率で比較するとコロナショックが突出しているのがわかります。
リーマンショックを乗り越えた後の株価の回復が順調だっただけに、その反動で市場がよりパニックとなってしまっているのでしょう。
またリーマンショック時の金融不安とは異なり、「未知のウイルス」という直接人命に影響を与えるものが敵となっている点も、より混乱を大きくしている原因となっているはずです。
このように株価は、中長期では小さな上げ下げを繰り返しながら緩やかに上昇しつつ、大きなショックが発生した場合、短期的な急落をすることが見て取れるかと思います。

上記のグラフの指数は、個別の上場企業の株価を総合した指標である、TOPIXとダウを使っています。
これら指標に組み込まれた上場企業の株価が上がればその指標は上がるし、下がれば下がります。
つまり、上記の3つのショック時は、大部分の上場企業の株価が大きく下がったことを示しています。

個々の企業の株価はこの式で求められる

それでは個々の企業の株価はどのように決まるのでしょうか。

個々の企業の株価は、以下の式で決まります。

株価 = 株式価値 ÷ 発行済株式総数(自己株式等調整後)

株価の変数は、株式価値と発行済株式総数の2つです。
しかし発行済株式総数は、増資や減資等がないと変動しないので、株価は株式価値に依存することになります。

それでは株式価値はどう考えるのでしょうか。
いくつか方法がありますが、現在はDCF法が主流です。DCF法では、以下の式で株式価値を考えます。

株式価値 = 事業価値 + 非事業資産 - 有利子負債等

この式中の、非事業資産や有利子負債は株価の変動という観点では直ちに大きな影響を与えるものではありません。
よって、「事業価値」が大きく減少したことで、株価が大きく減少したと考えることができます。
事業価値とは、企業の事業自体の価値です。企業は銀行と株主からお金を調達して事業資産に投資しキャッシュを稼ぎます。
その稼ぎ出すキャッシュの合計額が事業の価値を考えられます。これは以下の式で表すことができます。

事業価値 = Σ(FCF÷(1+割引率))+(FCF÷(1+割引率)^2)+・・・(FCF÷(1+割引率)^N)
FCF = 税引後営業利益 + 減価償却費等 - 設備投資額 ± 運転資本増減
割引率:将来のキャッシュフローのリスクに応じて投資家が期待する収益率

やや難しい式ですが、端的に言うと、事業価値は各年の企業のFCF(フリーキャッシュフロー)を(1+割引率)^Nで割り引いた合計額となります。後の年度になればなるほど(1+割引率)が何乗もされていくため、時間の経過と共に限りなくゼロに近い金額となります。

株価が下がるということは、将来のFCFが下がるか、割引率が上がるか、又はその両方に起因

ここまでをまとめると、株価が下がるということは株式価値が下がっているということ、株式価値が下がっているということは(だいたいは)事業価値が下がっているということ、事業価値はFCFと割引率で決まるから、事業価値が下がるということは将来のFCFが下がっているか、割引率が上がっているか、その両方か、ということ、になります。

割引率はその企業が属する国全体の期待収益率をベースとして個別の企業ごと(またはその企業が属している業界)の状況を調整して決まってくるものなので、日々で大きな変動があるものではありません。一方FCFは個々の企業の将来の業績(営業利益)がどのような水準になるのか、という視点で決まってくるので、個別のイベントで修正されやすいという側面があります。
上記の3つのショック時(コロナショックは継続中ですが)は、ほぼ全業種において消費者の需要が減少することで企業の業績が低迷する(将来FCFの下振れ)だろうと投資家が予想したことに加え、投資家が心理的にリスクを過大評価すること(パニックとなる)で割引率が一時的に大きくなったことで、事業価値が急落=株式価値が急落=株価が急落したことによるものだと思われます。FCFの減少と割引率の上昇が一気に起こってしまった場合は(分母が下がり、分子が上がる)、このように急落してしまいます。

まとめ

しかしよくよく考えると、一時的な消費者の需要の減少による短期の業績悪化が、中長期に渡り継続するか否かは個々の企業(または業種)次第でしょうし、割引率の増加も不安プレミアムが乗ってしまっている(理論的ではない)特別な状況かと思われます。
特に今回のコロナショックはリーマンショック時と違い、金融システムが壊れていない点も注目すべきでしょう。短期的には外出禁止等で企業の業績に直接打撃を与えてしまっていますが、何年も外出禁止が続くとは思えませんし、金融システムが壊れていない以上は割引率も正常値に修正されていくはずです。
そう考えると、(あくまでも私見ですが)今回のコロナショックはどこまで続くかはわかりませんが、そう遠くないタイミングで、投資家のFCF予想が上方修正され(通常の消費者需要の水準に戻る)、割引率が下方に修正(不安プレミアムがなくなる)ことで、一定程度の株価の修正が起こることが想定できるのではないでしょうか。

この記事の執筆者

この記事の執筆者
公認会計士 門澤 慎

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