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ストック・オプションとは? そして上場・未上場企業問わず導入が進んでいる、有償時価発行新株予約権(有償ストック・オプション)とは?

2021.08.05コラム

ストック・オプションとは? そして上場・未上場企業問わず導入が進んでいる、有償時価発行新株予約権(有償ストック・オプション)とは?画像

M&Aでは原則、株式の取得・売却の話が中心となるので、株式に関する議論が(当然)中心となります。一方で、会社の資本政策にまで話を広げるとストック・オプションというものが株式の次くらいによく出てきます。そしてこのストック・オプションは近年、資本政策のみならず役職員に対するインセンティブ制度の一環としてもよく使われます。そのため今回は、ストック・オプションについて書いてみたいと思います。

そもそも、ストック・オプション制度とは?

日本におけるストック・オプション制度は、株価連動報酬をインセンティブにしたい経済界の要請により、1997年の商法改正によって当該規定ができたことを契機として広まりました。

ただ、この時のストック・オプションは、付与対象者を従業員等に限定し無償で付与するものでした。その後2001年改正商法より、「新株予約権」という自社株式オプションの有価証券が規定され、株式の発行と同様その公正価値で発行することが基本となりました。しかしこの段階では、上場企業がインセンティブ・プランとして発行するストック・オプションは、依然としてほぼ100%近く無償で発行するものでした。

この現象は、新株予約権の公正価値を算定する株式オプション価格算定モデルが一般企業になじみがなく、価値算定自体が困難であったことや、税制適格要件を充たす無償ストック・オプションであれば税務上のメリットを享受できたこと等によるものと思います。実際、この段階では、価値算定や法務・税務上のアドバイスができる機関も殆どありませんでした。

それが、2006年5月から「ストック・オプション等に関する会計基準」が施行され、無償ストック・オプションであっても、株式オプション価格算定モデルで価値算定を行い、費用計上することが義務付けられるようになりました。ただ、一般的なプレーン・バニラ(シンプルな条件によるストック・オプションをアイスクリームに例えて「プレーン・バニラ」と一般的に称している)のストック・オプションの公正価値は、発行企業の市場株価の数十%となるため、公正価値を発行価額として有償で発行すると従業員等の資金負担が大きく、相変わらず無償のストック・オプションを採用する企業が殆どでした。

このように、無償のストック・オプションは上場企業や上場準備企業を中心として広まっていきましたが、その反面、使い勝手の悪さも指摘されるようになったのです。

無償ストック・オプションに対して、どういった不満が指摘されるのか。

よく指摘されるものは二つあります。一つ目は法務面での指摘。会社法の制約で報酬として扱われるので、特に役員の方に付与される場合は株主総会の決議事項になることです。上場企業で臨時株主総会なんて余程のことがなければ開けません。事実上、年1回の定時株主総会で決議する対応となり、機動的に発行することができないのです。
二つ目は税務面の指摘です。無償ストック・オプションも税制適格要件を充たして発行すれば、税務面のデメリットは担保できるのですが、これが非適格になると、ストック・オプションを株式に変えた時点で、時価と権利行使の差額が給与所得として課税され税金を支払わなければなりません。
そのため、もらう側にとってみるとストック・オプションがただ株に変わっただけで、まだキャッシュも入ってきていないのに税金を払わなければいけなくなるのです。

しかも株式を売却する際の譲渡所得課税は税率20%なのに、給与所得は累進税率で課税されるため、税率20%よりも高い税率が適用される可能性があります。これを知らずにやってしまう方がいて、思わぬ多額の税負担が発生してしまう事例も出たりしました。またストック・オプションをもらっても、従業員の方は無償でもらうだけなので、インセンティブ効果が薄いとも指摘されます。言うなれば、誰かが頑張って株価が上がったら儲かる、宝くじのようなモノと捉えられてしまうのです。こうした課題を解決するのが、有償時価発行新株予約権になります。

有償時価発行新株予約権とはどういったものなのか。

有償時価発行新株予約権は、簡単に言うと資金調達の新株予約権(ワラント)を応用したものになります。会社の資金調達は株式で資金調達する場合と、新株予約権で資金調達する場合などがありますが、どちらも上場企業の場合、原則として株主総会決議はいりません。取締役会決議で資金調達の意思決定ができるのです。

また新株予約権の取得者の税務についても、現金を支払って取得しており、何ら経済的利益を受けているものでないため、取得時だけでなく新株予約権を株式に変えた時のいずれにおいても課税されません。株式に転換しその株式を売却した時に譲渡益課税(20%)がかかります。
但し、現金を支払っても、新株予約権の公正価値より低い額で取得すれば、経済的利益が発生し課税されるので、新株予約権の公正価値を信頼できる専門家に算定してもらうことが大事です。

新株予約権を付与対象者に買ってもらう取引になるので、付与対象者はお金を支払う必要がでてくるかと思うが。

はい、そのとおりです。これはなかなか困難な話になります。なぜなら、将来株価がどれだけ上がるか分からないのに最初に支払いを求められることに対しての、不安・負担・不満が出てくることは想像に難くないでしょう。

一般的にプレーンの新株予約権を評価する際に使われる手法にはブラック‐ショールズ・モデルがありますが、この方程式を使ってストック・オプションを評価した場合、大体100円位の株価で40〜60円位の価格がつくことになります。つまり、普通に買ってもらうとすると、100円の株価に対して40〜60円払わなければいけないので、これは結構負担が大きい。

しかし、有償時価発行新株予約権では権利行使して株式に変える条件に厳しい負荷をかけることで、使い勝手の良い合理的な公正価値とすることが可能となります。
例えば、今10億円の営業利益の企業があって、その企業が3年後に20億円になったら新株予約権を行使できるという条件を付けるなどです。要は、価値算定の軸としてオプションに負荷をかけることで、公正価値を下げようと。さらに、その負荷を会社の目標にしてそれを達成できれば新株予約権を行使できる、と言ったことも可能となるので、新株予約権を購入した付与対象者のモチベーションもあがります。また株主も新株予約権が行使されるタイミングでは目標が達成されて株価が上がっているはずなので、希薄化の問題もそんなに気にしませんよね。
会社によって様々ですが、過去発行された事例をみてみると、当初の払込金額は株価の1%〜5%位程度となっています。

どういった企業が利用しているのか。

有償時価発行新株予約権の登場した当初はソフトバンクさんをはじめとした通信企業やIT企業の発行が中心でしたが、大和ハウス工業さんや電通さん等の日本を代表する大企業も発行するなど、他業界に浸透しています。また、スタートアップ企業等の未上場企業も、インセンティブ・プランの有力な選択肢として多くの企業が検討し発行しています。

企業は割り当ての対象者はどういう基準で選んでいるのか。

役員とか幹部社員が多いですが、広く従業員に付与される会社もあります。ただ、従業員の方には(申し込むかどうかは従業員の自由ですが)金払えと言われて抵抗を覚える方がでてくるケースもあるので、そういう会社には、役員・幹部社員には有償の時価発行新株予約権を付与して、従業員の方には無償を付与されるという会社さんもいらっしゃいます。そこを使い分けてやられる会社もいらっしゃいます。

実際の有償の払い込みはみんなどうしているのか。

現金で払込みをしてもらいます。会社によっては、払込期日を給与や賞与支給の後として資金に余裕があるタイミングにするといった配慮が見受けられます。賞与や給与と相殺は労基法等の問題もありますのでやめたほうがいいです。会社によっては社内の貸付制度で対応されているケースもあるようです。いずれにしても対応の仕方次第では法的な問題が生じるので、これらの対応をする場合には、弁護士に相談することが必須であると思います。

非上場でやるメリットとは。

実は、このタイプのオプションが我が国で活用され始めたのは、1980年代からであり、非上場企業による活用の方がむしろ多かったのです。1980年代には、新株予約権は存在しなかったものの、1981年の商法改正により、社債とオプションをセットで発行する新株引受権付社債(ワラント債)の発行が可能となっていました。

この商法改正に目をつけたのが、ベンチャー・キャピタル(VC)です。VCは非上場企業に株式投資する際、投資先の創業者保有の経営権の低下をやわらげるため、VCが投資先発行のワラント債を取得した上で、オプション部分を切り離して、創業者にオプションを譲渡するスキームを提案し、広く実行されていたのです。

現在でも上場準備企業の創業者は、少しでも議決権を確保するため、オプションを取得することを望んでいます。上場準備企業の創業者が、現在の新株予約権制度を活用するには、税務面の税制適格要件を充たすかどうかは非常に重要です。税制適格要件には、持株比率の制限(非上場企業の場合、3分の1以下)があるため、創業者が税制適格要件を満たさない可能性が高いため、非上場企業でも有償時価発行新株予約権は大きなメリットがあります。

有償時価発行新予約権の弱点は。

これは、今いる方にしか付与できないことです。新しい方が中途で入ってきてその方にインセンティブを付与したい場合は、また違う回号で発行しなければなりません。これは手間も費用もかかりますし、新株予約権の行使価額は発行時の株価(時価)とされますので、成長企業であれば行使価額は大きくあがってしまいます。

この弱点を克服したのが「信託型ストック・オプション」というスキームです。このスキームは、一回有償時価発行新株予約権を信託に割り当てます。そして従業員とかその後入ってくる方にも毎回の評価によってポイント規定みたいなものをつけて、評価のポイントに従って信託から新株予約権を割当てるのです。
最初に決めたルールに則って機械的に割当てていくということで、最初に信託へ付与した条件や価格が固定され、その後に入社した有能な人材にも、同じ内容の新株予約権を付与することができるというメリットがあります。

成長段階にある会社は基本的に株価が右肩上がりとなるため、後に入社した人がその時の株価をベースに新株予約権をもらっても、既に株価の高い状態なのでそこまでインセンティブがありませんが、このスキームだと安い株価の時に付与した新株予約権を付与できるので、大きなインセンティブを与えることができます。
次号はこの「信託型ストック・オプション」をもう少し詳しく説明したいと思います。

この記事の執筆者

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公認会計士 門澤 慎

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