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ストック・オプションの弱点を克服?!最近、導入が進んでいる「信託型ストック・オプション」とは?

2021.09.06コラム

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前号ではストック・オプション制度の歴史と無償ストック・オプションと有償時価発行新株予約権(有償ストック・オプション)についての説明をしました。

従来の無償ストック・オプションは、以下の特徴があるため、課題が指摘されていたこと

  • 役員に付与される場合は株主総会の決事事項となる点
  • 税制非適格の場合は、ストック・オプションを株式に変えた時点で、時価と権利行使額の差額は給与所得として課税され税金を支払わなければならないため、税務面で使い勝手が悪い点
  • 税制適格要件を満たすためにはいくつもの要件があるため、柔軟な発行が難しい場合がある点

有償ストック・オプションは以下の特徴を持つため、無償のストック・オプションと比較して使い勝手の良いものとして広まったこと等です。

  • 資金調達の新株予約権を応用したものであるため、(上場企業では)取締役会で決議ができる点
  • 取得時だけではなくストック・オプションを株式に変えた時のいずれにおいても課税されず、株式に転換しその株式を売却した特にのみ譲渡益課税(約20%)がかかる点
  • ストック・オプションの権利行使条件に負荷をかけることで、有償で取得する際にも使い勝手の良い合理的な公正価値とすることができる点
  • その負荷を会社の目標にしてそれを達成できればストック・オプションを行使できる、といったことも可能となるので、ストック・オプションを購入した付与対象者のモチベーションが上がる点
  • 既存株主もストック・オプションが行使されるタイミングでは目標が達成されて株価が上がっているはずなので、希薄化の問題もクリアできる点

このように有償ストック・オプションは、無償ストック・オプションの課題を一定程度クリアしたためその導入が広がりましたが、一方で有償・無償問わず、ストック・オプションの弱点として、今いる方にしか付与できません。新しい方が中途で入ってきてその方にインセンティブを付与したい場合は、また違う回号で発行しなければなりません。これは手間も費用もかかりますし、新株予約権の行使価額は発行時の株価(時価)とされますので、成長企業であれば行使価額は大きくあがってしまいます。

この弱点を克服したのが「信託型ストック・オプション」というスキームです。このスキームは、一回有償時価発行新株予約権を信託に割り当てます。そして従業員とかその後入ってくる方にも毎回の評価によってポイント規定みたいなものをつけて、評価のポイントに従って信託から新株予約権を割当てるのです。
最初に決めたルールに則って機械的に割当てていくことで、最初に信託へ付与した条件や価格が固定され、その後に入社した有能な人材にも、同じ内容の新株予約権を付与することができるというメリットがあります。
従来のストックオプション、信託型ストックオプショングラフ

この信託型ストック・オプションでは、会社が信託というハコに対して有償ストック・オプションを発行するため、有償ストック・オプションはいったん信託というハコに「保管」されます。そしてその「保管」された有償ストック・オプションは当初決められた期間と付与方法に応じて、役職員等に付与されることになります。
この時、1.有償ストック・オプションを取得する資金、2.課税関係、3.付与方法の3点が特に論点となります。この点について、信託型ストック・オプションスキームでは以下の整理がなされています。

  1. 有償ストック・オプションを取得する資金
  2.  有償ストック・オプションを取得する資金は、主に大株主等の会社のオーナーが資金を拠出することが一般的です。大株主等の会社のオーナーが信託の「委託者」となり、信託に資金を拠出(贈与)することで、信託が有償ストック・オプションを取得するための資金を準備することになります。

  3. 課税関係
  4.  まず大株主等の会社のオーナー(委託者)から資金の拠出があった時点で、信託側で課税されることになります(法人課税信託と呼ばれる考え方で一般の法人税率となる)。そして課税後の資金で有償ストック・オプションを会社から取得することになります。ここで重要なのは課税後の資金で有償ストック・オプションを取得したので、その後、役職員等に有償ストック・オプションを信託から付与する際には課税が発生しないということです。通常の有償ストック・オプションは役職員等が取得する際には、一定の取得資金が必要となりましたが(といっても負荷等をつけるため多額の資金は必要ないように設計されますが)、信託型ストック・オプションでは役職員等は取得の際に資金が必要とならないのも大きなポイントとなります。取得後は、通常の有償ストック・オプションと同様の課税関係となります。

  5. 付与方法
  6.  あらかじめ定められたルールに基づいて、決められた年度以後に信託から役職員等に有償ストック・オプションが付与されます。よく使われるルールはポイントによる付与ルールです。人事評価に紐づくルール(人事評価でSからCまでの評価をつけ、その評価に応じてポイントを付与する等)、業務効率化等に紐づくルール(業務の効率化、工数削減、新業務フローの確立、重要業務の維持運用等に特に貢献した社員にポイントを付与する等)、採用に紐づくルール(新入社員に対し、採用時にポイントを付与する等)、などなど様々なポイント付与規定の事例があります。これら付与規定に従って役職員等にポイントが付与され、定められた期間到来時に、ポイント数に応じて信託から有償ストック・オプションが付与されることになります。

信託型ストックオプション前提イメージ
はじめて聞いた方は少々複雑なスキームのようにも見えますが、うまく活用すればとても有用なスキームです。特にストック・オプションを信託にいったん「保管」し、その後、会社に貢献した人に付与できる点は、急成長中の会社としては特に使い勝手のよいものとなるでしょう。

この記事の執筆者

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公認会計士 門澤 慎

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