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DCF法をもう少し深く検討するための論点とは?

2021.10.04コラム

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株式価値算定でよく用いられる評価方法に「DCF法」というものがあります。これまでの本コラムでも何回か取り上げている題材となりますが、その中では少々細かすぎて取り上げていない論点があります。今回のコラムではそれら論点をいくつかご紹介したいと思います。

参考:
「会社の価値の考え方」
「会社の価値の考え方②(DCF法と類似会社比較法の関係)」

①期央主義と期末主義

DCF法で行われる割引計算では、キャッシュフローを(1+割引率)のN年乗で割り引いていくことになります。1年目であれば1乗、2年目であれば2乗で割り引くことになると教わっている方も少なくないでしょう。この考え方自体は間違ってはいませんが、これはその期のキャッシュフローが期末に一気に発生するという事象が前提となっています。期末に全てのキャッシュフローが発生するから、n年乗で割り引くことと整合するという考え方です。しかし、実際の企業活動は、日々キャッシュフローが発生します。そのためキャッシュフローの発生を期の途中(半期)で発生したという前提をおいて割引計算をする考え方があります。これが「期央主義」です。この場合、1年目は(1+割引率)の1/2乗で割引計算を実施し、以後、2年目、3年目以降は、(1+割引率)の1/2乗に1年ずつ加算していくことになります。

②修正βと未修整β

 割引率を計算する際、「β」という指標を使います。これはマーケットポートフォリオの収益率の変動に対する個別銘柄の収益率の感応度を表す指標です。要するにTOPIXが1%変化した場合に、個別銘柄の株価がどれくらい変化したかを表す指標で、個別銘柄がTOPIXと同じ変化率の場合は、β=1となります。βはある一定期間のマーケットデータを取得し回帰分析をすることで(そこまで難しくなく)算出することができます。このように回帰分析のみで算出したβを(便宜的に)未修整βとします。βは、過去の一定期間の株価変動から推定されたものなので、評価する時点が変われば異なる値を取る場合があります。そしてβは長期的にはマーケットポートフォリオのリスクに収れんするという考え方があります(つまり1に近づく)。そのため、この考え方を反映する方法として、「未修整β×2/3+1/3=修正β」の調整を加え、未修整βを極力1に近づける補正(修正)を加える場合があります。個人的にはどちらもあり得る(特に未修整βが著しく小さい場合等)考え方かと思います。場合に応じて使い分ける算定者もいます。

③評価対象会社の資本構成と類似企業の平均資本構成

 DCF法の割引率で使用されるWACC(加重平均資本コスト)を算出する際に、株主資本と負債における資本構成を検討する必要があります。この資本構成によって(負債の節税効果を加味することで)WACCの値が変わることになります。この時、WACCの前提となる資本構成は、評価時点における状況に基づいて見積もるのではなく、長期的に収束すると見込まれる状況を前提にする必要があります。そしてそのような前提において、「評価対象会社の現時点での資本構成を使用する場合」と、「類似企業の平均資本構成を使用する場合」が考えられます。一般的には類似企業の平均資本構成を使用する場合が多いように思われます。類似の業界で類似のビジネスモデルによる事業を展開している場合、多少のバラつきはあるにせよ、業界特有の負債依存度の特徴が出てくるものです。そのため評価対象会社も(評価時点では異なっていたとしても)長期的には業界特有の負債依存度に収束すると考えることが整合的だという考え方です。しかし評価対象会社の資本構成を使用する場合もあります。例えば何らかの事情でキャッシュリッチな会社で現状負債を使用しておらず、かつ将来においても負債を活用する見込みのない企業等は、評価対象会社の資本構成を使用するほうが整合すると言われています。

今回は上記の3点を紹介しましたが、まだこのような論点がいくつかあります(機会があればまだコラム化したいと思います)。いずれもどちらかがあっていてどっちかが間違っているというものではなく、それぞれで考え方の理屈があります。そのため算定者によっても採用する方法が異なります(ファームポリシーで決まっている場合もある)。いずれの方法を理解した上で使用する場合とそうでない場合では、算定の深さが変わってきます。細かい論点かもしれませんが、是非、みなさんも関心を持って検討してみてください。

この記事の執筆者

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公認会計士 門澤 慎

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