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中小企業庁 第3回中小M&Aガイドライン見直し検討小委員会 検討資料を読んで

2024.06.05コラム

中小企業庁 第3回中小M&Aガイドライン見直し検討小委員会 検討資料を読んで

 昨今の事業承継型M&Aのニーズが高まる中で、事業承継型M&Aに関する適切な行動指針として、中小企業庁はガイドラインを公表している。2015年に公表された「事業承継引継ぎガイドライン」は、M&Aの活用による事業承継を促すため安心して活用できるための「手引き」的なものが必要であるとの考えから、M&A の手続きや、手続きフロー毎の利用者や仲介者・アドバイザー等の役割・留意点、トラブル発生時の対応等を明らかにする目的で策定された。その後、5年後の2020 年3月には「中小M&Aガイドライン(第1版)」が公表される。「中小M&Aガイドライン(第1版)」は、実質的には2015年に公表された「事業承継引継ぎガイドライン」の改訂版としての位置づけであるが、よりM&A に関して詳細な記載がなされたガイドラインである。ここでは、M&A に関する意識、知識、経験がない後継者不在の中小企業の経営者の背中を押し、M&A を適切な形で進めるための手引きを示すとともに、これを支援する関係者が、それぞれの特色・能力に応じて中小企業の M&A を適切にサポートするための基本的な事項が併せて示された。これまで以上に国を挙げて事業承継型M&Aを後押しするために策定されたガイドラインとも言えるだろう。

 これら社会ニーズの高まりや中小企業庁の後押し、そして仲介会社等のM&A支援機関の大幅な増加により、事業承継型M&Aのマーケットはかつてないほど大きくなっていった。この流れは市場を活発にするプラスの側面もある一方で、急速に大きくなったマーケットであるがゆえに、規制や資格制度がないこと起こるM&A支援機関の質に関する問題が顕在化してきた。これを受けて中小企業庁は2023年に「中小M&Aガイドライン(第2版)」を公表した。当ガイドラインでの冒頭では、「後継者不在の中小企業もその対象に含む中小M&Aの市場が急速に拡大し、マッチング支援やM&Aの手続進行に関する総合的な支援を専門に行うM&A専門業者(主に仲介者・FA)が顕著に増加する中で、特にM&A専門業者に関して、その契約内容や手数料のわかりにくさ、担当者によっては支援の質が十分と言えない場合があるといった声が聞かれるようになった。」との記載がある。このような問題に対応するため、当ガイドラインと、別途中小企業庁が制度として設けている「中小M&A支援機関制度」を連動させて運用することで、中小企業庁は上記の問題に対して対応を図ってきた。

 これらの流れの中で中小企業庁は、さらに中小M&Aガイドライン(第2版)の改訂版(第3版)を検討している。2024年5月31日公表の資料を読むと、以下の内容が議論されていた。

  ①仲介・FA手数料に関する説明
 ②広告・営業の禁止事項の明記
 ③(仲介の場合)禁止される利益相反行為を具体化
 ④最終契約後に当事者間で争いにつながるリスクがある事項への対応
 ⑤経営者保証の扱いについて
 ⑥不適切な事業者の排除について

特に①の手数料については、利益相反問題も絡めて議論されているようである。その議論の中で、このような記載があった。

『仲介の場合には、利益相反防止等の観点から、①仲介契約締結前に相手方の手数料の算定基準の開示を求める。さらに、②①で説明した手数料の算定基準を変更する場合については、利益相反防止の観点も踏まえ、相手方の手数料を増額する場合(ただし、開示する基準は依頼者と合意した上で設定できるものとする。)にも増額の開示を求めるとともに、自分の手数料を減額する場合には、相手方の手数料の扱いについて改めて説明を求める。』

これまでの仲介会社における利益相反の議論として、両者から報酬を受領することが利益相反にあたるとされていたところ、それだけではなく、両者の報酬の基準の相違がより強い利益相反を招くとして議論されているようである。確かにそうかもしれない。仲介会社は買い手と売り手の間で中立的な立場で案件をまとめるべきところ、例えば買い手から報酬の増額を提示された場合、買い手の意向を汲んで案件をまとめにかかる誘因が強くなるのは推して知るべしだ。それを防止するために、相手方の報酬基準額を開示する(左記事例でいうと、買い手の報酬基準を売り手に伝える)ことは一定程度の抑止効果になるかもしれない。ただ果たしてこれが利益相反の防止につながるのであろうか。現場実務を鑑みると、仲介契約締結後に買い手の報酬額増加について売り手が開示を受け、売り手が納得をしなかったところで、既に進めていたプロセスを売り手が強い意志で白紙にするのは中々骨が折れる交渉である。この構図で考えると、買い手は報酬を増額してでも自社の有利な条件で買収したい、仲介会社はとにかく案件をまとめて報酬をもらいたいという誘因が強くなっている、こんな状況で売り手が買い手の報酬増額について承服しかねる場合でも、仲介会社や買い手からのあの手この手の説得により、渋々承諾することになるのではないか、と推察する。

 昨今のM&A支援機関、特に仲介会社の利益相反問題に関する議論が深まり、それに対する方策がガイドライン等で記載されるのは業界全体にとっても良い流れであるとは思うものの、どこか、いたちごっこ感があるのも否めない。仲介取引のおける利益相反問題は、根本では法規制でしか防止できないものであるし、M&A支援機関の質の担保についても、資格制度等の強い方策(国会資格にはそれに付随する、法的拘束力のある倫理規定がある)が必要なのではないか、と第3版の議論を読んでみて、改めて感じたところである。

参考

第3回中小M&Aガイドライン見直し検討小委員会 配布資料

過去コラム

中小M&Aガイドライン改訂版(第2版)における「重要事項説明」をやってみて
中小M&Aガイドラインの改訂(第2版)を考えてみる
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中小企業庁による、M&A支援機関登録制度における実態調査結果
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親族外事業承継におけるM&A業界で指摘される問題についての考え方① ~仲介取引における利益相反問題~
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この記事の執筆者

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公認会計士 門澤 慎

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